安倍政権のバラマキ財政は成功した

池田 信夫

国交省の塚田一郎副大臣が更迭された。NHKによると、福岡県知事選挙の集会で彼が4月1日に発言した内容は次のようなものだ。

下関は誰の地盤か。安倍晋三総理大臣だ。安倍晋三総理大臣から麻生副総理の地元への、道路の事業[下関北九州道路]が止まっているわけだ。吉田博美参議院幹事長と大家敏志参議院議員が副大臣室に来て、「何とかしてもらいたい」と言われた。動かしてくれということだ。

吉田氏が私の顔を見て、「塚田、分かっているな。これは安倍総理大臣の地元と、麻生副総理の地元の事業なんだ。俺が、何で来たと思うか」と言った。私はすごくものわかりがいい。すぐ忖度する。

これに対して吉田氏が「そんな発言をした事実はない」と否定し、塚田氏も「われを忘れて事実と異なる発言をした」と撤回して辞任したが、そんな話は誰も信じていない。こういうやり取りは自民党ではよくある話で、違法でもない。むしろ塚田氏が「国直轄の調査計画に引き上げた」という自慢話があやしい。

下関北九州道路には共産党を除く与野党が賛成しているが、しんぶん赤旗は「関門トンネルも関門橋も交通量が減っているのに、3本目をつくっても採算は取れない」と指摘している。陳情が始まってから20年たっても本予算がつかないのも、それが原因だ。

しかし採算性を問題にしたら、これからつくる道路や鉄道のほとんどは赤字だ。それを国費で埋めるのが、自民党得意の財政バラマキである。この点で安倍政権の実績は大きい。

図のように安倍政権になった2013(平成25)年度以降、ほぼ一貫して公共事業関係費は増えている。2018年度は当初予算だけで6兆円、補正予算を含めると8.7兆円で、リーマンショック直後の2009年度とほぼ同じ規模だ。

公共事業関係費の推移(財政制度審議会)

2010年度には「バラマキ財政をやめる」という民主党政権の方針で公共事業費は減ったが、2011年度以降は震災復興費で増えた。ここ数年は不況でもないのに、公共事業費が増えている。これがGDPの増えた大きな原因だ。

アベノミクスでは派手な金融政策が話題になったが、それは目くらましである。6年たってもインフレ目標は達成できないが、それは大した問題ではない。日銀の最大の任務は、膨張する国債を買い支える財政ファイナンスなのだ。これによって安倍政権は2度も増税を延期し、財政支出を拡大した。

自民党サイトより:編集部

これは理論的には、間違いともいえない。日本のようにゼロ金利の状況で緊縮財政を続けると、マイナス金利になって金融市場が機能しなくなる。サマーズが指摘するように、先進国の金利は赤字財政によって辛うじてゼロですんでいるからだ。

赤字財政で下関北九州道路のようなバラマキ公共事業が復活すると、資源配分の効率は落ちる。日本のように社会資本の整備された国では、既存のインフラの補修を中心にすべきで、地方への新規投資は望ましくない。

だが無駄な公共事業でも雇用は生み出す。それは投資プロジェクトとしては浪費かもしれないが、労働者が失業するという社会的な浪費を防ぐことができる。これによって成長率が高まると税収も増え、将来世代の負担も減る。

問題は財政赤字の無駄と成長の費用対効果である。こういう動的な効率性は理論的にはむずかしいが、現実的なインプリケーションは単純だ。長期金利が名目成長率より低いときは財政赤字を出すことが長期的にも効率的になる。

だからアベノミクスは金融政策としては失敗だったが、財政政策としては成功したという評価も可能だ。国会で野党はバラマキ財政を糾弾するだけではなく、こういう財政赤字の費用対効果を議論してほしい。アゴラ経済塾「長期停滞の時代」でも、この問題を議論したい(ネット受講はまだ受け付け中)。