「孤独死」は不動産価値の低下をもたらすのか?

孤独死という言葉に公的な定義は無いが、内閣府の「平成30年版高齢社会白書」によれば孤独死は「誰にも看取られることなく亡くなったあとに発見される死」だとしている。例を挙げるなら、一人暮らしで病気やケガなどを慢性的・突発的に発症(受傷)し、救護の依頼も出来ずにそのまま亡くなってしまい、その発見が遅れることなどがその典型だ。

※画像はイメージです(写真AC:編集部)

孤独死が発生すると、その内容如何では孤独死が発生した居室をその後に賃貸したり売却したりする場合に、その居室内で起きた一連の事実を説明する「告知義務」が発生する。その死に事件性がある場合はもちろん、孤独死が発見されるまでに時間(数日~数か月)がかかったような場合も重要な事項の告知義務にあたるといわれているが、そのケースごとに判断が分かれる。

不動産取引においては、居室内の「人の死」すべてが重要事項にあたるとは解されていない。一般的な感覚でいうなら、例えば、近親者に看取られて病死し、その葬儀をその建物内で行ってもそれを重要事項として告知する義務はないと考えられる。

ただ、孤独死においてはそれが「重要な事項」として告知義務があるかどうかの判断は難しい。「建物内で発生した人の死すべてを告知義務とする」というような法律があればいいのだが、民法や宅建業法では明確な事案ごとの線引きはなされていない。

このような、告知義務の範囲についての判断に迷う理由はただひとつ、そこに「不動産価値の毀損」が付きまとうからに他ならない。

例えば自死などが発生した賃貸居室については、賃貸できない期間が発生したり賃料の減額を余儀なくされる場合がほとんどである。よく耳にするのは「次の入居者にだけ告知すればその次の入居者には告知しなくてもいい」や「2年間経過したら告知しなくてもいい」などだが、その事案ごとに判断は分かれる。最終的には訴訟によるしかないのが現状なのだ。

不動産取引の紛争防止や紛争処理などを行っている一般財団法人「不動産適正取引推進機構」(RETIO)では、不動産取引に関わる様々な判例を掲出しているので、それらも告知義務が生じる取引の指標になることは間違いないが、当然にケースバイケースとなっていることはいうまでもない。

考えなければならないのは、孤独死が将来的な不動産の価値にどう影響していくかだ。

現在、日本全体では人口減少が始まっているが、大都市ではいまだに人口が増加している。これは出生と死亡の差による「自然増加」ではなく、人が移動して人口が増える「社会増加」であるのだが、これに伴い大都市では単身者向け賃貸住宅の需要が未だに高い。東洋経済オンライン(4月10日)によれば、JR山手線「五反田駅」徒歩5分のマンション(総戸数47戸)が投資家向けに販売されるとすぐに「即日完売」したらしい。

出生率の低い都市部に人口が集中すると将来的に独居率がかなり高くなる可能性がある。国立社会保障・人口問題研究所によると、2040 年に全国の「単独」世帯は39.3%にのぼると推計されている。単身者が多い都市部では当然これよりも高い数字になるだろう。

単独世帯のすべてで孤独死が懸念される訳ではないが、将来的に高齢の独居者が増えるのは間違いないし、それに伴い孤独死の数が増えていくのは想像に難くない。不動産の価値を決めるのは物件内の「人の死」だけではないが、人の死に対する告知義務については今後明確な基準を決めるべきだろう。

孤独死すべてが不動産取引における告知義務となるなら、将来、日本の住宅の多くに「告知事項あり」の文字が付加されることになるかもしれない。


高幡 和也 宅地建物取引士
1990年より不動産業に従事。本業の不動産業界に関する問題のほか、地域経済、少子高齢化に直面する地域社会の動向に関心を寄せる。