今回は、拙著『波風を立てない仕事のルール』(きずな出版)のなかから謝罪に関するエッセンスを紹介します。
■失敗は誰にでもつきもの
失敗は誰でもしてしまうものです。自分の不手際やミス、勘違いなどで、相手を怒らせてしまった経験。あるいは自分が失敗をしなくても、同僚や部下、または上司のミスを自分が負うことになり、謝罪しなければならない場面もあります。
ここで覚えておかなければならないのは、「真実」と「世間のイメージ」は必ずしも一致しない、ということです。ミスやトラブルが起きたとき、誰が真犯人なのか、何か真の原因なのかという「真実」は、たいした問題ではありません。それよりも、人々はその後の謝罪に対する姿勢などから抱くイメージのほうで判断します。
このことをよく理解せず、失敗への対処方法を間違え、火に油を注いでしまうことは珍しくありません。ちょっとした対応で、その後の展開や相手との関係性が大きく悪化してしまうこともあります。
例えば、部下のミスでトラブルが起きたとき、「これは部下のミスです」と真実を述べても、相手はあなたに対して誠実さを抱かないでしょう。これでは、上司としての自分の責任逃れの弁明をしているようにしか聞こえません。
誤った謝罪を続けると、いくら謝ったつもりになっても相手の不信感をぬぐうことができず、やればやるほど不利な状況に陥ります。「らちがあかない」時ほど、冷静な状況判断が求められます。
■謝罪で明暗が分かれた事例
謝罪のやり方ではっきり明暗が分かれた事例としては、2018年に話題となった「日大タックル問題」が挙げられます。これは、日本大学と関西学院大学のアメリカンフットボールの試合で、日本大学の選手が明らかに試合とは関係ないところで関西学院大学の選手に危険なタックルを行い、ケガを負わせた出来事です。
ここで焦点になったのは、この反則プレイを選手が独断で行ったのか、それとも監督やコーチの指示があったのか、というところでした。
この一件では、当事者である選手と、監督・コーチが別々に記者会見を行いました。加害者である20代を過ぎたばかりの選手は、多くの記者の前で自らの顔と実名を明らかにし、ケガを負わせた選手らに謝罪をしたことで世論を味方につけることに成功しました。
それに対し、監督、コーチは責任を逃れるような言動を繰り返し、世論を敵に回します。質問をする記者と喧嘩かをする司会者も悪い意味で注目を集め、アメフト部のみならず、日本大学そのもののブランドイメージを毀損しかねない事態になりました。
警視庁は最終的に、学生を傷害の疑いで書類送検し、元監督やコーチに罪を問いませんでした。ただ、警察の判断と、世間の印象は大きく違うはずです。ミスやトラブルが起きた原因を追究し、再発防止策を練ることは必要です。ただ真実を追究するよりも、適切な謝罪を行い、印象を悪くしないことを重視したほうが良い場合もあるのです。
参考書籍
『波風を立てない仕事のルール』(きずな出版)
尾藤克之
コラムニスト、明治大学サービス創新研究所研究員