海外でも「令和」時代の幕開けに注目

30日の朝、オーストリア通信(APA)のHPをいつものように開くと天皇陛下御退位と「令和」時代の幕開けについて大きく報じた記事と写真が目に入った。海外でも天皇陛下の生前御退位と新しい「令和」時代について、強い関心が寄せられていることが分かる。

▲日本の天皇陛下ご家族の写真(宮内庁公式サイトから)

APA通信のタイトルは「天皇陛下の退位、日本、新しい時代を迎える」(Kaiser Akihito dankt ab)だ。皇居から手を振っておられる天皇陛下のお写真、そして新しく即位される天皇陛下と皇后さまの写真を大きく掲載していた。そして「平成時代」が幕を閉じ、「令和時代」を迎えると説明。ちなみに、「平成」については「平和が成就する」という意味を紹介し、「令和」は「秩序、平和、調和」を意味すると説明している。そして「平成」から「令和」に元号が変わると共に、日本も変わってくるだろうと予想していた。

当方は「平成」時代の30年3カ月間、欧州に住んでいたので「平成時代の日本を振り返る」といったことはできないが、新しい「令和」時代のスタートには心が躍るのを感じる。

APAは「平成時代は元号が意味するように平和を成すだ。日本の近代史で珍しいことだが、平成時代には戦争はなかった」と報じていた。日本国民が平成時代、平和を享受できたことはただただ幸甚だったと思う。

「平成」は西暦カレンダーでいえば、1989年から2019年4月末までの期間に当たる。欧州ではその期間は、第2次世界大戦から続いてきた冷戦時代が終わり、ポスト冷戦時代に突入すると同時に、ボスニア紛争やコソボ戦争といった民族紛争が多発した期間に該当する。日本の「平成時代」は西暦に生きる欧州では決して平和な時代ではなく、民族紛争やテロ事件が多発した時代だったともいえるわけだ。

ところで、海外に住んでいる当方は「元号」で書かれた記事に出くわすと、頭の中で西暦に転換するようになる。例えば、「平成14年」は西暦何年かをチェックする作業だ。2番目の息子が生まれた年の翌年に元号が「平成」に変わったので、息子の誕生の年から「平成」何年かを頭の中で計算する、といった具合だ。だからと言って、当方は元号廃止論者ではない。

日本の歴史、文化が固有のものであるように、その固有文化の象徴的な意味合いを含む元号は貴重な文化財産だと考えている。その意味で、「令和」が発表された時、それを現地の知人たちにどのように説明したらいいかを考えた。「令和」を「命令と調和」と恣意的に訳するメディアもあった。そして新しい元号を安倍政権と結び付けて政治解釈するメディアもあった。日本外務省のHPでは「令和」を「美しい調和」といった説明があったが、文字一つ一つを訳すると「美しい調和」ではなく、「美しさと調和」の方がいいのではないか。

APA通信は「5月1日0時0分を期して、85歳の天皇陛下(明仁さま)から59歳の皇太子殿下(徳仁さま)が新天皇に即位する」と報じ、「日本は戦後、急速な発展で経済大国になったが、中国に抜かれ、社会では貧富の差などの格差問題が出てきた。多くの日本国民にとって平成は厳しい時代でもあったから、新しい令和時代の到来で状況が改善することを期待し、日本の興隆を予想する声も聞かれる」と述べている。

その一方、「新天皇陛下、皇后陛下はこれまでの天皇陛下御夫妻とは異なった略歴だ。外国語が堪能であり、海外生活も経験されている。新天皇陛下、皇后様は国民との接触を進め、海外に出かけられる回数も増え、日本の皇室が大きく変わっていくだろう」と予想している。

新天皇陛下の即位で「天皇の役割」について新たな議論が湧いてくるかもしれない。「伝統的な皇室」派と「開かれた皇室」派がぶつかり、「女性天皇」の是非など喧噪な議論を呼ぶかもしれない。欧州の王室は久しく時代の洗礼を受け、急変している。日本の皇室も変化は避けられないだろうが、「変わらない伝統」の持つパワーを無視してはならないだろう。国家の象徴、国民の結束と連帯は「変わらない伝統」を土台として築かれていくからだ(「急変する欧州の王室」2010年12月28日参考)。

「令和時代」が到来した。日本にとって、そして世界にとっても良き時代の幕開けとなることを期待したい。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年5月1日の記事に一部加筆。