欧州議会選挙が5月23日から26日にかけて行われますが、英国の離脱の具体化が進まないため、英国は今回の選挙に参加せざるを得なくなりました。欧州議会選挙の各国の議席数は概ね人口の案分比率で決まっています。最大はドイツで96議席を持ち、英国はフランスの74議席に次ぐ73議席で数的には3番目に多くなっています。
予定通り離脱していればこの議会選挙には参加していなかったわけですからある意味、この73議席をめぐる英国国内の動きが現時点での英国の将来への期待を表すものと考えられます。
AFPが発表した最新世論調査では離脱推進派でまだ出来たての政党であるブレグジット党が34%を占めダントツの一位。二位は最大野党の労働党で21%、三位が離脱反対派の自由民主党で12%、四位にようやく政権与党の保守党が11%でつけるという構図になっています。
メイ首相は離脱に関して野党労働党のジェレミー・コービン党首と手を組んでいますが、労働党の21%と保守党の11%を足しても離脱推進派のブレグジット党の34%に追い付かないという状況になっています。最終的にどのような結果をもたらすか、ふたを開けてみないと分かりませんが、明らかに言えることは二つ。一つは離脱強行派に再び騰勢が出てきていること、もう一つはメイ首相の完全なる失墜であります。
私はメイ首相が首相に指名されたことがそもそもの間違いだったと今でも思っています。それは彼女に離脱したい気持ちがなかったのに、首相になったので政治家として、あるいは国民の代表として自分の気持ちに蓋をして国民投票の結果を尊重する行動をとる、というものでした。それは悪い表現をすれば「行動に嘘がある」のです。やりたくない離脱を進めるというのは先日のこのブログの話ではありませんが、背水の陣など敷けるわけがありません。
メイ首相を中途半端に支持したことによる与党保守党の分裂、そして首相の人気低迷は英国の政治をすっかり変えてしまう可能性すらあります。保守党と労働党という二大政党が牛耳る時代は終わり、多党分裂が進み、連立を組まざるを得ない社会であります。
今後の注目点は離脱の条件がはっきりし、離脱が実行された時点で、国民感情に明白な分裂の可能性が起こり得る点でしょうか?
国民感情の分裂はアメリカでも起きているとされていますが、アメリカの場合はトランプ大統領が好きか嫌いか、という話であり、今後の大統領選次第ではいつかはまたひっくり返る可能性があります。ところがEU離脱は原則的には三途の川を渡るようなものですので5年後、10年後に「あの時、あの決定をしていなければ…」というボイスはどちらの選択肢をとったとしても起こりえます。
唯一、その分裂を避けるにはどちらの選択肢をしたとしても英国の経済が安定し、順調に発展することが重要になってくると考えています。英国国民は現時点ではそれぐらい将来の予想が立ちにくい、ともいえます。
日系の自動車会社の英国撤退の話も相次ぎます。ほかの産業も同様でしょう。ただ、最終的にロンドンのシティの機能をきちんと維持できる体制をとれれば時間はかかりますが、英国がダメになることはないとみています。個人的には英国がタックスヘイブン化できるような国に向かっていくような気がしています。(欧州のシンガポールのようなイメージでしょうか?)
それにしても英国民の移民労働者への反発とは英国民のプライドの表れでもあります。ふと、これが日本ならどうなるのだろうか、と考えることもあります。日本人の職が外国人に奪われることは今はまだ想像できないですが、いずれそういう時代が来ないとも限りません。その意味でも英国の今回の行方は他人事だとは思えないのであります。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年5月16日の記事より転載させていただきました。