日経ビジネスの「世界の最新経営論」にドミニク テュルパンというスイスの教授が興味深いことを記しています。「トレンド転換の前後で勝ち続けたプレーヤーはいない。鉄道会社から自動車メーカーになった企業はなく、自動車から航空機メーカーになった企業もない」と。
携帯電話についても同様だと指摘しています。「1Gの時代の勝者はモトローラだった。しかし、モトローラは2Gの移行に失敗した。2Gではブラックベリーが台頭した。だが、今ではブラックベリーも姿を消した。3Gではノキアが飛躍したが、4Gの勝者はアップルだった。さてこれから5Gの時代になった時、果たしてトップ企業はどこになるのだろうか?おそらく、5Gのトップは上記以外の会社だろう」と述べています。
昨今の時代の流れはより早く、激流ともいえる時代になってきました。もしもテュルパン教授の指摘に汎用性があるとなれば勝者は今後、どんどん変わり、いわゆる「長期安定政権」樹立は難しいとも理解できそうです。
果たして本当にそうでしょうか?
今、クルマの世界は大きな変革期にあるとされています。考えてみれば1920年代に大きく勃興した自動車産業はT型フォードが全盛を迎えます。ただ、どれも黒で同じ車ばかりが走っている中、20年代後半にGMがカラフルでかつ、GMACという金融子会社を使い、ローンで車を買えるという仕組みを生み出します。これが市場を席巻し、フォードは落日を迎えます。ただ、その後、GMは一度倒産したものの、フォードもGMも健在で次の時代のリーダーとなるべく彼らなりの最先端技術を武器に挑戦を続けています。
他方、電気自動車の時代になれば今よりはるかに多くの会社が電気自動車業界に参入し製造するだろうと指摘されています。確かに電気自動車というハードだけ見ればそうかもしれませんが、今やソフトとハードの融合の時代です。今までも考えもしなかった会社が突然自動車メーカーのトップに君臨することはあるのでしょうか?
トヨタは強い危機感を持ち、MaaS(Mobility as a Service)という新しい概念をソフトバンクと取り組んでいます。車は移動手段の一つでしかなく、それは用途と目的に応じて使われるものだ、とも言えます。つまり、あらゆる輸送手段、バス、電車、航空機、自動車などをコネクトし、人の移動をあたかもどらえもんのタケコプターのごとくシームレスに移動できる方法を生み出すハードとソフトの融合を次世代の移動手段としてとらえています。トヨタはすでにそれに気が付き、次世代のための準備をしているのです。
こう見るとテュルパン教授のいうプレーヤーの交代はあるのか、私は必ずしもそうではないという気もしています。
一つは企業規模とテリトリーが明らかに変化しています。かつての企業は専門分野の深堀的発想でしたが、今はインキュベーションしたばかりの新興企業をGAFAやソフトバンクといった資本力ある大企業が買いまくっています。その結果、一つの大企業の守備範囲が異様に広まっているのです。
資本の力と政治力によるいびつな力関係が経営やイノベーションの世界まで直接的に影響することは過去、あまりありませんでした。5Gは誰が制するか、という上記の例で行くとファーウェイの可能性もあったはずです。しかし、それは政治的に潰されかかっています。そして大資本を持つ企業ほど有利な展開が進んでいるようです。
私が専門の不動産開発。あちこちで高層マンションが建っていますが、個人的にはこのトレンドは20年ぐらいで終わるとみています。建物というハードにソフト機能がほとんどない上、管理組合という管理がまともにできない古典的手法に固執する発想そのものがナンセンスなのです。既存の不動産スキームは時代にほとんどマッチしているとは思えません。
私ならマンションは全部居住権リースにします。つまり、土地建物の所有権はデベロッパーないし、REITが維持したまま、居住権だけを売ります。前払い一括リース(Life Leaseといい、私が関与した物件の一部で15年ほど前に既に導入しています。)という案もあるでしょう。それによりデベロッパーが住宅にサービスを提供する自由度を高めます。フードデリバリーサービスから食物工場のシェア、自転車や自動車のシェアに各種教室、更には高齢者向けディサービスやケア施設などを取り込むのです。面白いものができるはずです。
このアイディアは既存のマンションデベロッパーが十分にできるはずです。気が付くかどうか、そこだけなんですね。もしもやらないとすれば「そんなもの売れるわけがない」というメンタルバリアが破れないだけなのです。だいたいマンションを所有している人が自分の土地の持ち分に固執する人はいますか?いないでしょう。マンションとは何の権利を実質的に買っているかといえば’コンクリートに囲まれた一定の空間の居住権だけなのです。なぜならマンション所有者の自由度はほとんどなく、一例として、ベランダは専用できる共用エリア、玄関ドアも通路側は共用といった具合です。
トヨタの豊田社長もパナソニックの津賀一宏社長も気が付いています。津賀さんの「今のままでは10年も持たない」という発言の真意とは「トレンド変わり」がすぐそこまで来ている、だからぬるま湯につからず、視線を新たに、ということかと思います。
ビジネスの賞味期限が伸びてテュルパン教授の予想が当たらないようにするのが我々ビジネスマンの使命ではないでしょうか。そのために既存の殻を破るのです。頑張らなくちゃなりません。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年5月31日の記事より転載させていただきました。