安倍首相が国会会期を延長せず、衆参ダブル選挙を回避するとの見方が支配的になる中、「老後資金に2000万円が必要」とした金融庁の報告書を巡って、炎上する気配が出てきた。参院選に向けて、めぼしい争点に欠けると思われた矢先、衆院解散がなくなったことに安心したのか、急に“元気”になった野党は安倍政権への攻勢を強めた。
10日の参院決算委では、立憲民主党の蓮舫副代表がこの問題を追及し、安倍首相は「不正確であり、誤解を与えるものだった」と釈明。さらに、蓮舫氏が麻生金融相に報告書を読んだのかをただすと、麻生氏が「冒頭の一部、目を通した。全体を読んでいるわけではない」と明かしてしまった。
これに蓮舫氏はすかさず「読んだら5分で終わる報告書を読んでいない」と突っ込む展開に。二重国籍騒動以後、数々のブーメランネタで精彩を欠いていた蓮舫氏だったが、久々に国会質問で、マスコミが取り上げる「見せ場」を作り出した。
麻生氏、金融庁報告書「全部読まず」=老後2000万円、野党反発-参院決算委:時事ドットコム
調子に乗った蓮舫氏は、報道が多かったことに気を良くしたのかツイッターでFNNニュースの記事を引用。「色々な報道、反応。 ただ、忘れてはいけないのはたった一つ。 国民のためにあるのが政治。 報告書も読まずに。 長々と持論展開。 そうではなく、国民の不安に向き合うのが政治だ、と私は思う」と、追及の手を緩めず、アピールに力を入れた。
防戦気味になった与党は一夜明けて焦りを隠さなくなった。自民党は、金融庁に対し、報告書の撤回を要求。二階幹事長は「不安を招いた」と述べ、公明党も山口代表が「いきなり誤解を招くものを出してきた。猛省を促したい」と苦言を呈した。
自民、「2000万円蓄え」の金融庁報告書の撤回要求(産経新聞)
さらには、蓮舫氏にターゲットにされた麻生氏は、この日の閣議後の記者会見で「世間に対して不安や誤解を与えており、政府のスタンスと違う」「世間に対して不安や誤解を与えており、政府のスタンスとも違う。担当大臣としては正式な報告書として受け取らない」などと述べ、問題の報告書を受け取らない意向を明らかにした。大臣が所管官庁の報告書の受け取りを公然と拒否するのは極めて異例だ。
これには元財務官僚でもある国民民主党の玉木代表は「不適切なのは報告書ではなく麻生大臣だ。担当大臣が審議会の報告書を受け取らないとは何事か。議論いただいた審議会メンバーの皆さんにも失礼だろう。自分たちにとって不都合なものは認めない。恐ろしいことだ。また忖度が蔓延する。」と厳しく批判した。
政府自民党が焦りを深める背景としては、安倍政権にとって年金問題が「トラウマ」とも言えるからだ。安倍首相が第一次政権下の2007年参院選で敗れて一度退陣したのは、当時の社会保険庁の「消えた年金」問題が大きく影響したとされる。
しかし、いまの野党は、当時上り調子でのちに政権を担った民主党のような「受け皿」的な存在が見当たらない。NHKが10日に発表した各党の支持率で、自民党はダントツの36.5%。野党はトップの立憲民主党でも5.1%しかなく、2007年参院選当時のNHK調査で、自民党31.8%、民主党20.5%だった情勢とは明らかに開きがある。
こうした状況の中、日本維新の会の足立康史衆議院議員は、蓮舫氏の質疑について「一方的な印象操作が始まった。不安を煽るだけで、ソリューションは一切示さない」と酷評。
政治家以外の反応では、自民党の金融庁への抗議に「撤回したら年金増えるのかよ」と呆れ気味にツイートした。
投資家でもあるZOZO執行役員コミュニケーションデザイン室長の田端信太郎氏は、一連の金融庁報告書の騒動について「バカじゃないの? 地動説を唱えたら宗教裁判になったみたいな話だ。それでも、地球は回る。それでも年金だけでは足りぬ。泣いても喚いても事実でしょうが」と、年金の先細りを懸念する世の中の空気を代弁するかのように指摘していた。
この政局が空騒ぎに終わるか、本物となるかは、野党側もただ追及するだけでなく、現実的な解決策を示せるかどうかもが試金石になりそうだ。