ギャンブルが動機の事件の被害額は振り込め詐欺並みかそれ以上?

田中 紀子

当会では、カジノ法案が世で騒がれ始めた、2014年に「ギャンブルが動機にある事件簿」という、啓発冊子を作成し関係各所に配布しました。

これは、平成以降にギャンブルのお金欲しさに、詐欺、横領、窃盗、万引き、強盗、児童虐待、時には殺人まで犯した事件をまとめたものです。

但し、もちろん当会がそれら事件を全て拾えるわけもなく、事件が新聞もしくはテレビで報道されネットニュースになったものをだいたい拾ったというものです。

当時はこういった事件の根底に「ギャンブルのお金欲しさ」という動機があるということが、世間に知られておらず、殆どの事件が点で起きており「動機」という線で結ばれてこなかったので、データも調査も全くなく、関係者には衝撃を与えました。
そのため国会でも取り上げて頂きその結果、基本法に、刑務所への調査という項目を入れることができました。

我々は仲間達と、この「ギャンブル動機の事件」をいまだ拾い続けているのですが、ふと
「ギャンブル動機の事件の被害額って1年間でどのくらいあるのだろう?」
と思い2018年1月~2018年12月までで、我々が把握している事件の被害総額を合計してみました。
すると驚いたことに、事件数は105件 被害総額は27億283万820円もあったのです。

皆さま、これ「報道され」「ネットニュースになり」「当会が気がついた」事件だけの数字です。
ですからホンノ氷山の一角にすぎないのです。
けれども社会の中では「報道されない」事件の方がずっと多い訳ですし、また当会も全てのネットニュースを拾いきれているわけではないと思います。

さらにこの105件の事件の中には、昨年11月に石川県で起きた、「孫が祖父(71)を自宅で絞殺。
孫は事件後、自宅のテレビをリサイクルショップに持ち込み換金し、30キロ離れた店でパチンコをしていた所、警察官に発見された。」という凄惨な事件もあります。

これなどは、事件数には入っていますが、被害額は分からないためカウントされていません。

元のNHKネットニュースが削除されてしまったため、現在ネットにはこちらしか残っていませんが、

祖父の家に同居していた無職孫、パチンコ代のために祖父を殺してテレビを売り逮捕(はちま寄稿)

こうなってくると、金額というよりもこんな悲惨な家族間の事件が起きている…
ということをもっと社会に知ってもらいたいと思うんですよね。
何故か、日本ではこういったギャンブル動機の家族間殺人があまり大きく報道されないんですよね。

写真AC:編集部

現在、大きな社会問題となっている、振り込め詐欺の被害額は2018年度で356億8000万円と発表がありましたが、これは事件が大きく報道され注意喚起されたおかげで、ピーク時の2014年の600億近い金額から、毎年減少傾向にあります。

それでもとんでもない金額ですし、最近は殺人などの凶悪犯罪も起きており、まだまだ解決には程遠い状況ですが、実はこのギャンブルが動機にある事件の被害総額も、振り込め詐欺と同じくらいあるのではないか?と我々は推測しています。

何故なら私たちは、報道されない横領や窃盗、万引き、強盗事件の「加害者になってしまった…」という、ご家族からの悲痛な叫びを、相談電話でほぼ毎日受け付けているからです。

是非とも国は、カジノ推進だけに躍起になるのではなく、こういった実際に起きている社会の負の側面から目をそむけることなく、きっちりと調査し、課題解決に向き合って欲しいと思います。

またメディアの皆さんも、事件の根底の動機に何があるのか?
きちんと深掘りして報道して頂けたらと思います。


田中 紀子
公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表
国立精神・神経医療センター 薬物依存研究部 研究生
競艇・カジノにはまったギャンブル依存症当事者であり、祖父、父、夫がギャンブル依存症という三代目ギャン妻(ギャンブラーの妻)です。 著書:「三代目ギャン妻の物語」(高文研)「ギャンブル依存症」(角川新書)「ギャンブル依存症問題を考える会」公式サイト