対韓国半導体材料輸出規制は過剰反応

本来であれば通商関係のコアなニュースであるべき対韓国の半導体材料の「輸出規制」が一般週刊誌ネタになるほど盛り上がるのはマスコミと世論の煽りなのだろうと思います。挙句の果てにウォールストリートジャーナルまで「安倍首相はライバル国の中核産業を経済的に罰するトランプ(米大統領)流の手法を手本にした」(日経)と報じています。

(写真AC:編集部)

全てが過剰反応な報道です。基本的には今回の措置は対象品目の輸出に関して包括許可を個別許可に戻すだけの話でそれ以上でもないし、それ以下でもありません。包括許可は優遇待遇を受けられる条件を備えた国(ホワイト国)への輸出が対象となりますが、今回、韓国はホワイト国としての条件を満たさなかったのでそのリストから落ちた、ということになります。

ホワイト国は「大量破壊兵器等に関する条約に加盟し、輸出管理レジームに全て参加し、キャッチオール制度を導入している国については、これらの国から大量破壊兵器の拡散が行われるおそれがないことが明白であること」(経産省)であり、かなり技術的な審査プロセスであります。韓国は2004年にこれが認可されています。なお、現在、ホワイト国は27か国ありますが、その大半は欧米諸国であり、アジア圏の国は一つも入っていません。もちろん、中国も含めてです。逆に言えばそれぐらい厳しい規制であり、諸要件が満たされないならば当然、delist(除外)されるのは当然でしょう。

では、メディアが騒ぐほど半導体製品が作れなくなるといった問題になるのでしょうか?個人的にはまずならないとみています。一時的に在庫調整はあるかもしれませんが、それ以上ないでしょう。理由は個別許可だとしても一契約一許可であって仮に今回の措置が実施されたとしても継続する契約についてはあたかも包括許可の時と同様、輸出は許可されるはずです。

まさか、韓国の大手メーカーがそれらの対象品をスポット買い(取引一回ごとで売買すること)しているとは思えず、結局、私はほぼザル規制になるのではないかという気すらしています。もう少し言えば「規制」という言葉を使うのも正直、適正ではなく、どちらかといえば「通常取引に戻した」と言うだけの話です。

一部メディアは輸禁だとかWTOに訴える、はたまた韓国は報復措置を取ると言っていますが、レベルはかなりひどく、むしろ、ほとんど何も知らない人たちだけが勝手に盛り上がっている感すらあります。

考えてみれば中国はレアメタルの規制や企業買収に絡む許可申請などについて恣意的に遅らせたり不許可にすることがあります。(東芝メモリ売却の際にも苦労しました。)それでもどうにかこうにか、日本はビジネスを続けることができたのは規制に対する対抗ではなく、「対策」を行ってきたからです。

今回の話も相手方はいくらでも対策はとれるはずです。それにこれは輸禁ではなく、単にプロセスに90日ぐらい時間かかるだけの話です。多分ですが、韓国側は十分な対策はとれると思います。仮にこの個別許可品目が今後、増えるとしても韓国側は事前準備がいくらでもできるはずです。

そういう意味からすれば徴用工問題云々への反撃というのは大げさな解釈でむしろ、冷えこむ日韓関係の中で政府レベルの通常のやりとりすら滞っているという実務上の実態の話に尾ひれがついているという感じではないかと思っております。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年7月5日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。