「折り畳める」スマホなどに見る技術の行きつくところ

岡本 裕明

スマホの開発に斬新さがなくなってきました。今、一般消費者が注目するのは画面が折り畳みできるスマホで、広げると2倍の画面サイズになるというものです。しかし、発売を前に今一つ盛り上がりに欠けるのはそこまで大きな画面で見る必要があるのか、ということかもしれません。大きさが必要ならタブレットがあるし、広げた画面では電車の中なら隣の人からのぞき込まれる可能性も高いでしょう。

サムスンの「折り畳めるスマホ」(同社ニュースルームより:編集部)

更に、この仕組みは一画面が折りたためるという仕組みで今までにもあった2画面を繋げるわけではないのでそれぞれの画面で別々のものを映し出すなどの機能の応用も効きません。つまり、物珍しさ以上に飛びつくほどのものではないのでしょう。

では液晶画面はどうでしょうか?有機ELの画面も多数出ていますが、一般ユーザーにとって有機ELにしてよかったと思う人はどれほどいるでしょうか?確かに鮮明なのですが、液晶でも一般用途には全く問題ない域にあると言えそうです。

モノの開発はある程度まで行くと消費者がついてこれず、開発者、技術者、マーケッターが独り歩きし、「これはすごい!」と自画自賛するのですが、全然ヒットしない結果を生みます。これは今まで多くの家電、AV機器やテレビで経験しており、個人的には白物家電でも例えばロボット掃除機などはその域に入っていると考えています。(私もロボット掃除機、持っていますが、数回使ってあまりにも性能が悪いので仕舞ってしまいました。)

テレビでは4Kから8Kと言われていますが、これも技術者の趣味の世界が強いと思います。音の世界ではハイレゾリューションが一時話題になりましたが機器の接続が面倒でハイレゾの音源も限定されていたことからブームはシュッと萎んでしまいました。

ではインターネットの5Gの世界はどうでしょうか?世界ではアメリカや韓国などがすでに一部のサービスを開始し、日本は2020年春ごろになる見込みですが、すでにサービスを開始した地域から「これはすごい!」という声は聞こえてきません。なぜでしょうか?

実は5Gの世界は一般ユーザーが必要としているスペックを既に凌駕しつつあり、ごく普通にスマホを楽しむのなら5Gを実感することはあまりないからかもしれません。5Gの世界はどちらかといえば工業や産業向け用途に広く応用できますが、普通の方は4Gでほぼ困らないのです。

5Gの場合、下り速度(ダウンロード)も速くなるのですが、上り速度(アップロード)のスピードに驚異的な改善が施されることで双方向の作業が可能になる特徴があります。それゆえに遠隔操作や大量のデータの同時やり取り、それと安定性があり、途中で途切れない信頼性がより高まるというものです。よって医療やIoT、自動運転といった幅広い産業用途に期待がかかると同時に例えば地方にある特定の工場や施設の中だけ5Gといった場所を限定した応用も検討されています。

ロボットはどうでしょうか?レストランやホテルでロボット君が相手するケースを耳にしたり、体験した方も多いと思います。しかし、よく考えてみれば「機械がしゃべる」という点に於いては日本では当たり前にどこでもあります。スーパーで買い物した際の精算機や駅の切符販売機だってよくしゃべるし、清涼飲料の自販機だってしゃべります。あとは臨機応変さと動くかどうか、ということが物珍しさも手伝っているということかと思います。

例えば人材不足が顕著な介護の現場に於いてロボット君が何か役に立つでしょうか?私も介護事業を支援している立場からすると「違う」のです。そんなものではなくて介護者の高齢化が進む中で装着すると重いものも軽々と持てるパワーアシストスーツの方が10倍役に立つと思います。これ、建設現場や宅配業者でも使えるのですが、今のパワーアシストスーツはごつすぎてダメだと思います。もっとスリムで簡単に装着できるものの開発が望まれます。

写真AC:編集部

技術の進歩は一般向けと産業向けにそろそろ区分して考えた方がいいのかもしれません。少なくとも我々の日常生活においてスマホは十分溶け込んできましたが、それ以上を求めているかといえばまだ早いのかもしれません。

スマホウォッチで駅の改札を抜け、コンビニで買い物をするのはクールかもしれませんが、それが必要とまでは言いません。いや、むしろスマートウォッチそのものが目立ちすぎてテイスティではないでしょう。

スマートスピーカーはどうでしょうか?アメリカでは普及しているようですが、日本は3%程度とされます。理由はスマートスピーカーが「指示をしたことを行う」だけに留まるからでしょう。使用人を使う文化がある国では「誰かに何かをやらせる」発想なので受け入れられるのでしょうが、日本はそのような文化を持っていないのです。

個人的には技術革新で踊ったこの20数年ですが、今後は工業用を含めたインフラへの用途が増え、一般向けはしばし、落ち着いた状態が続くような気がします。我々一般人は技術革新に驚き、喜んできましたがやや疲れたかな、という気がしています。いわゆるもっと人間らしい元の不便さを懐かしむ揺り戻しもあるのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年7月19日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。