欧州でも様々な賭け事がある。スポーツ分野ではサッカーの試合、ボクシングの世界タイトル戦、政治分野では選挙の行方、政治家の当落、有名な女優の出産時の新生児の性別までいろいろだ。ここまで賭けなくてもいいのにと思うこともある。「人間は賭ける存在だ」といえばそれまでだが。
さて、1対7000の掛け率(オッズ)を読者の皆さんはどのように受け取られるだろうか。例えば、サッカーやボクシングの世界ではありえない掛け率だ。せいぜい1対3程度だ。ところが、欧州宇宙機関(ESA)は16日、プレスブリーフィングで小惑星「2006QV89」が今年9月、地球に衝突する可能性はなくなったが、衝突する可能性は1対7000だったと発表した。惑星の地球衝突リスクの確率が4桁内ということは非常に危険だったことを意味する。
考えてみてほしい。欧州レベルで行われる富くじ(ロット)の当たる確率は1億4000万対1だ。ほぼ当たらないと考えていい。しかし、今回の小惑星の場合、1対7000だった。我々は事前には知らされなかったが、小惑星が地球に衝突するリスクが高かったわけだ。
ESAによると、小惑星「2006QV89」の大きさは20メートルから最大50メートル。7月初めのチリ観測データによると、同惑星が9月9日、地球に衝突する危険性はなくなったという。ただし、同惑星は2023年に地球に接近する軌道に再び入るという。同小惑星が地球と衝突すれば、その爆発規模は広島級原爆の100倍にもなるというのだ。
2013年2月15日、6年前、直径20メートル、1万6000トンの小惑星が地球の大気圏に突入し、隕石がロシア連邦中南部のチェリャビンスク州で落下、その衝撃波で火災など自然災害が発生したのはまだ記憶に新しい。約1500人が負傷し、多数の住居が被害を受けた。ESAによると、今後100年以内に地球に急接近が予測される870の小惑星をリストアップしている。
「2006QV89」は2006年8月に発見された。発見後、10日間ほど観測されたが、観測データに基づくと、2019年9月9日には地球に衝突することが予測された。確率は当時、1対7000だったわけだ。
ESAとチリにある「ヨーロッパ南天天文台」 (ESO) は連携し、今年7月4、5日、地球に衝突する危険性のある「2006QV89」をESOのパラナル天文台の超大型望遠鏡(VLT)を利用して観測した。
小惑星を正確にその位置と軌道を観測することは難しいが、観測された場合、軌道を計算し、地球に衝突する可能性があれば、厳密にフォローすることになる。天文学者は、「一度観測された小惑星が再度観測され、地球に衝突するコース上にあれば要注意だ。われわれは願わくば危険性のある小惑星とは再会したくはない」という。
小惑星の衝突は過去にもあったし、将来も考えられるが、惑星の軌道を正確に計算できない限り、予測が難しい。地球が大きなダメージを受けるほどの惑星の衝突は過去、記録されていないが、大昔、生存していた恐竜の突然の消滅の背後には、惑星の地球衝突があった、という学説は聞く。ちなみに、米映画の「アルマゲドン」(1998年製作)や「ディープ・インパクト」(同年)などは惑星や彗星が地球に衝突するという台本だ。
「2012DA14」と呼ばれている小惑星が2013年2月、地球を通過した時、このコラム欄で以下のように書いた。
「小惑星の急接近は、一時的にせよ地球上の紛争やいがみ合いを忘れさせ、私たちの目を宇宙に向けさせる機会となるだろう。ひょっとしたら、小惑星の急接近は、私たちの思考世界を地球の重力から解放し、偏見も拘りもない、自由な世界に飛躍させてくれるかもしれない」(「『思考』を地球の重力から解放せよ」2013年2月9日参考)。
今回の「2006QV89」の地球衝突リスクについての報道を読んで、同じように感じている。私たちの思考世界を地球の重力から解放すべき時を迎えている。20日は米アポロ11号が人類初の月面着陸を達成して半世紀が経過する日だ。
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「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年7月20日の記事に一部加筆。