被害者意識、自己憐憫、そして反日

長谷川 良

海外中国メディア「大紀元」からニュースレターが配信されてきた。その中で興味深いニュースがあったのでそのニュースを紹介しながら、コラムを始めたい。タイトルは「被害者意識から抜け出して」。米保守派のコメンテーター、米国黒人女性のキャンディス・オーウェンズさんの話だ。

▲南北融和路線を一直線に走る文在寅大統領(2019年6月20日、韓国大統領府公式サイトから)

オーウェンズさんは米民主党を「彼らは黒人、女性、マイノリティー、LGBT(性的少数派)の人々に被害者意識を植え付けている。そして彼らが自立することを阻止し、全ては政府が悪い。あなた方は被害者だと繰り返し主張している。一般的に、左翼の世界観は被害者意識である。この意識を何世代にもわたって植えつけられた黒人は、なかなかそこから抜け出せない」という。彼女自身も、数年前まではリベラルで民主党派だったという。

被害者意識に伴うのは怒りや恨みだ。しかし、オーウェンズさんにとって成功の秘訣とは勤勉に働き、家族を大事にすることであって、怒りではない。「これは、あらゆる人種に共通する価値観である。アメリカに移住した日本人が、かつて過酷な差別を受けながらも他の移民に比べて比較的豊かだったのは、よい価値観に基づいた生活と自助努力があったからだ」という内容は正論だろう。

彼女の主張を聞いていると、どこかの国を思い出してしまった。隣国・韓国だ。韓国の為政者は「我々は日本の植民地化で搾取され、人権を蹂躙されてきた。全ては日本側の責任だ」と強調し、国民に被害意識を植え付けてきた歴史がある。朝鮮半島で今席巻している「反日」は被害者意識が憎悪まで高まっていった結果だろう。韓国民は犠牲者、加害者は日本人といった考え方だ。

被害者意識は米国内の少数民族や韓国で見られる特有の現象ではない。被害者意識の歴史は長い。共産主義思想を思い出してほしい。資本家や知識人が労働者を搾取していると主張し、労働者は被害者だ、それから解放されるために資本家を打倒する共産革命が避けられないと主張し、労働者を煽り、共産主義の国家を建設していった。共産主義は労働者の被害者意識に火をつけ革命を起し、資本家たちを打倒していったわけだ。ただし、その後に建設された共産国家は、資本家たちが支配していた国より独裁的であり、人権蹂躙が日常茶飯事の国となっていったことはまだ記憶に新しい。

被害者意識を植え付けられた国民、民族はどうしても自立精神を失う一方、問題があれば責任を転嫁する習慣がついてしまう。旧ソ連・東欧政権時代、労働者はノルマだけを意識し、自主的に、創造的に対応するという習慣を失っていった。その結果、欧米の資本主義経済に敗北せざるを得なかった。共産圏では国民が自主的に考え、創造することが禁止されていた。

オーウェンズさんが主張しているように、被害者意識から脱皮し、勤勉に働き、自助努力こそ発展の秘訣だろう。彼女がその好例として米国に移住した日本人の生き方に注目し、評価しているわけだ。

ところで、被害者意識は自己卑下を生み出す一方、自己憐憫をもたらす。自己憐憫は心理学的には自己傲慢の現れだと受け取られている。すなわち、被害者意識に囚われていると前向きに考えることや、未来志向が難しくなるわけだ。オーウェンズさんの「被害者意識から脱皮を」は米国内の黒人、少数民族だけにあてはめられたものではなく、韓国民にとっても非常に啓蒙的な内容があると確信する。

黒人や女性、少数民族出身の国民に被害者意識を植え付ける米民主党や、日本の植民地化時代を理由に、国民に被害者意識を訴える反日を駆使する文在寅政権は国民の自主性、自助努力を奪う大きな過ちを犯していることになる。


ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年8月19日の記事に一部加筆。