旧東独州議会選にみるドイツの現状

ドイツでは、9月1日にザクセン州とブランデンブルク州で、10月27日にはテュ―リンゲン州と、旧東独の3州で立て続けに州議会選挙が行われる。極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)は3州でいずれもトップ争いに絡んでいる。

▲ザクセン州政府閣僚会議の風景(2019年8月20日、ザクセン州議会公式サイトから)

ドイツForsa世論調査によると、AfDは3州とも20%以上の支持を得てトップ争いに加わっている。ザクセン州では与党「キリスト教民主同盟」(CDU)が31%でトップを走り、それをAfDが25%で追っている。ブランデンブルク州では与党の社会民主党(SPD)が21%、それを追ってAfDが20%と僅差で第2位、CDUは18%で第3党に甘んじている。ちなみに、欧州議会選(今年5月)ではAfDは同州で第1党だった。テュ―リンゲン州では左翼党が26%でトップ、それを追ってCDU24%、AfD21%と3党が激しいトップ争いを展開させている。

前回の州議会選(2014年)の結果に基づいて、ザクセン州ではCDUとSPDの連立政権、ブランデンブルク州はSPDと左翼党、テュ―リンゲン州では左翼党・緑の党、SPDの3党の連立政権が発足した。

AfDは今回、3州で20%以上の得票率を獲得する勢いを見せているが、どの政党もAfDとの連立政権を拒否している。興味深い点は、連邦レベルで第1党へ進出する勢いを見せている「同盟90/緑の党」は旧東独では伸び悩んでいることだ。世論調査によると、ブランデンブルク州で14%、テュ―リンゲン州11%、ザクセンで10%に留まっている。

東西両ドイツの再統一から今年で30年目を迎えた。ドイツ連邦政府は8月21日、閣議で1991年に導入された「連帯税」を2021年から納税者の9割を対象に廃止することになった。連帯税は旧東独の開発支援を目的として導入されたもので、国民1人当たり所得の5・5%が給料から差し引かれてきた。メルケル政権は連帯税の廃止で国民経済に刺激を与えたい意向だ。連帯税の廃止は国民には減税だ。

ドイツ政府は東西間の経済格差は縮まってきたと判断しているが、ドイツ経済研究所(DIW)は4月、「東西間の生産性は依然20%の差がある」と指摘し、所得差も依然、旧西独と旧東独の間で歴然とある。雇用市場も同様だ。AfDはメルケル連邦政府の経済政策や難民・移民政策を批判し、有権者の批判票を集めているわけだ。

旧東独の3州の中で人口が最も多いザクセン州(約430万人)をみれば、旧東独が旧西独とは明らかに違うことが分かる。ザクセン州ではCDUが僅差でAfDを抜き、第一党だ。同州では対ロシア制裁の解除を求める声が強い。メルケル政権はウクライナの併合などを理由に対ロシア制裁を実施中だが、同州のミヒャエル・クレッチマー首相は、「早急に制裁を解除すべきだ」と主張する。同州首相はメルケル首相の与党CDUに所属しているが、所属政党ばかりか連邦レベルの政策にも反対の立場を表明しているわけだ。

ザクセン州では対ロシア制裁解除を要求する声が過半数を占める。その背景には対ロシア制裁で同州の機械輸出などが大きな影響を受けているからだ。ブランデンブルク州のディートマー・ヴォイトケ州首相はSPDだが、対ロシア制裁の解除ではザクセン州首相の意見を支持している。

ちなみに、ロシアのプーチン大統領は旧東独時代、ザクセン州の州都ドレスデンを拠点としたソ連国家保安委員会(KGB)のエージェントだった。旧東独では当時、35万人から50万人のロシア兵士が駐留していた。

ドイツでは昨年8月末、ザクセン州のケムニッツ市で極右派の暴動が起きたが、同州のマーテイン・デュリグ経済相はシュピーゲル誌との会見の中で、「われわれの敵はAfDでなく、不安だ。それに打ち勝つためには希望と確信が必要だ」と述べたが、「不安」に打ち勝つ「希望」と「確信」をどの政党が国民に提示できるだろうか。旧東独国民には「われわれはベルリンから理解されていない」といった不満や怒りが強いのだ。

旧東西ドイツが再統一して今年で30年目を迎えるが、分断国家の再統一には30年は短すぎるのかもしれない。

ウィーン発『コンフィデンシャル』」2019年8月28日の記事に一部加筆。