概算要求105兆円、本当に改革できるのか?

岡本 裕明

2020年度の概算要求が出そろいました。各省からの要求額は19年度比3%増の105兆円。今後詰めていって予算になる時には若干減りますが、それでも100兆円は切れません。

(財務省ツイッターより:編集部)

膨張する歳出に対して歳入がついていけばよいのですが、増えているとはいえなかなか追い付かないのが現状です。19年度の歳入予算はざっくり見ると消費税19兆円、所得税20兆円、法人税13兆円などで一般会計税収の合計が62.5兆円になります。これは過去最高の歳入です。それでも借入金を約33兆円しないと収支が合いません。

日本の歳入歳出においては借入金を借りる側、返済する側の両建てで表現するのでわかりにくいのですが、これを歳入歳出の借入金をネット表示にして2019年度予算案は9.1兆円の借入金増とすると予算案は101.4兆円ではなく、77.9兆円と見立てるほうが実はわかりやすいんです。そしてこの9.1兆円をどうにかしないと日本の借入金は永遠に増え続けるということになるのです。

さて、2020年の概算要求で一番目立つのはやはり年金医療費で0.5兆円増の32.6兆円です。全体のバランスを考えるとあまりにも大きな負担となりすぎで抜本的対策を早く立てなくてはいけません。年金の話は少し前にしましたので今日は医療費の改革ができるのか、少し見てみたいと思います。

以前、処方箋とドラッグストアの薬の値段の相違についてこのブログで書いたことがありますが、本来、あるべきではないこの差額への着目こそが医療費対策の第一歩となります。花粉症でもう医者に行く時代ではない、という啓蒙をしなくてはいけないのでしょう。

ドラスティックな考え方としてはファミリードクター制度なんですが、私はいっそのこと、ロボットないし先端のテクノロジーで「予診」を行うという考え方にしてしまった方がいいと思います。ロボットないし機械化する理由は「情を入れない」ためです。医者も人の子、患者も懇願すれば「しょうがないねぇ」という甘えはあります。まず、それを断ち切ります。

「予診」という考えは私が勝手に思っているのですが、あえて言うならファミリードクター制度の一歩手前でしょうか?事務員さんがいて機械の操作を手伝ってくれます。どうしても専門家の対応が必要な場合のみ双方向通信の画面を通じてドクターとやり取りできる仕組みにします。ここで軽微な疾病に関する対応(薬の紹介など)を振り分け、とにかくドクターがより効率的に仕事をし、研究できるスタイルにするべきでしょう。能力ない医者も断ち切るべきです。

ついで超高額医療費に対する対応も必要でしょう。日本では白血病治療薬の「キムリア」が薬価3349万円で最高となっていますが、今後、これをはるかに上回る医薬品がごろごろ出てきます。これは遺伝子治療が主流になってくるからです。これら高額な医薬品対応を日本の既存の保険制度を適応させること自体がもはや破滅へ突き進んでしまうことになります。ここも抜本的に変えるしかないのです。

私見では高額医療にのみ対応する第二健康保険を設定し、保険も二階建てにするか、民間企業がそのような健康保険を開発するしかないと思います。一定額を超える医薬品は一般健康保険では原則対応しない、という仕切りを作るしかないでしょう。理由は管理の範疇が全く違う代物であり、今後もモンスター薬品はいくらでも出てくるからです。もちろん、これには異論百出が想定されますが、今の保険制度では無い袖は振れないという発想は必要です。

医療に話が行きましたが、2020年度概算要求で他に目立つのは国交省の公共事業費を19%増しの6.3兆円でしょうか?自然災害が増えたことと既存インフラのメンテにかかるのでしょう。カナダでは地球温暖化に伴い融雪が増え、ダムが設計基準を超えるリスクがあり、強化が進められています。日本も地球環境の変化に伴う問題は必ず発生するわけでこの分野の支出はやむを得ないのですが、労働者が足りないので予算を使いきれず、翌年に繰越すいう問題があるのはあまり注目されていません。ケインズ的景気刺激策がワークしない理由の一つはここにあるともいえるのでしょう。

防衛費も1.2%増やす要求が出ています。これも正直分かりにくい分野です。高額な戦闘機などの購入はアメリカとの安保の代替のようなもので純粋な防衛費と言えるのか、議論してしまうと奥が深くなってしまいます。今後、アメリカからの要求は更に高まるはずで日本が東アジアの橋頭堡になるなら今の予算のレベルではなくなる可能性はないとは言えないでしょう。

以前も申し上げましたが歳出だけを取り上げるとどうやっても答えは出てきません。プライマリーバランスがより遠くなってしまいます。その中で法人税収入がたった13兆円というのはおかしいと思います。取りやすい消費税とサラリーマンの所得税が主体で逃げ道が多い法人税が少ないのでは国民は納得しません。いくら日本企業にかつての勢いがないと言えども2000億円以上の当期純利益を上げている企業が42社、1000億円以上なら92社もあるのに法人税13兆円では仕組みそのものを見直すべきだろうと思います。税率をいじるのではなく、捕捉するという発想です。

しっかりした先進国はプライマリーバランスを強く意識しています。健全財政は国民を豊かにするとも言えます。我々の社会はある意味、豊かすぎる面があります。分野によってはシフトダウンすることも覚悟する必要があるのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2019年9月2日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。