毎日新聞は週刊ポストに謝罪を学べ

田村 和広

週刊ポストは、韓国特集の記事に関して9月2日に以下の通り謝罪した。

問題となった週刊ポストの韓国特集(編集部撮影)

謝罪内容

週刊ポスト9月13日号掲載の特集『韓国なんて要らない!』は、混迷する日韓関係について様々な観点からシミュレーションしたものですが、多くのご意見、ご批判をいただきました。なかでも、『怒りを抑えられない「韓国人という病理」』記事に関しては、韓国で発表・報道された論文を基にしたものとはいえ、誤解を広めかねず、配慮に欠けておりました。お詫びするとともに、他のご意見と合わせ、真摯に受け止めて参ります。(『週刊ポスト』編集部)

NEWSポストセブンより引用)

これを受けて、毎日新聞が社説で以下の通り論評していた。

毎日新聞社説

週刊ポストの特集 嫌韓におもねるさもしさ

(略)雑誌が「本音のメディア」であることは否定しない。際どい手法を用いながらも、ゲリラ的に権威や権力に挑むことでジャーナリズムを活性化させてきた歴史はある。

しかし、今回の特集はそれらと次元を異にする。日本社会の一部にはびこる韓国人への偏見やヘイト感情におもねり、留飲を下げる効果を狙ったのではないか。だとすれば、さもしい姿勢と言わねばならない。(略)日韓間には感情的なあつれきを生みやすい歴史がある。だからこそ、双方の認識ギャップを埋める努力がいる。その役割を担うのはメディア自身ではないのか。

毎日新聞2019年9月4日 東京朝刊 社説、太字は筆者)

社説に感じる3つの疑問

毎日新聞社サイトより:編集部

疑問1:毎日新聞は、文脈から推測すると、「刺激的な見出しで読者を惑わし、見出しとは異なる内容の記事でリスクヘッジする」騙しのテクニックを「際どい手法」と呼ぶのだろうか。

疑問2:「一部の偏見や感情におもねり溜飲を下げる効果を狙ったのではないか」と仮定又は推論を展開し、その仮定又は推論を前提としながら「さもしい姿勢」とまで侮蔑的な評価を下している。自らが勝手に設定した前提をベースにそこまで言ってしまってよいのだろうか。

疑問3:毎日新聞自身は、戦略特区報道での誤報と不誠実な取材・報道姿勢を晒しつつ、それを原因として訴えられた身でありながら、「過ちを認め潔く謝罪した」他メディアのことを見下した論評するとは一体何を考えているのだろうか。自身は無謬なのか。

週刊ポストの当該記事について

筆者も当該雑誌を購入して確認した結果、下記3点の評価をした。

評価1:エンターテイメント誌であることを考慮しても、一部見出しは言い過ぎであり、また見出しと記事内容の不整合という点も不適切だ。

韓国特集の最後の見開き(P36, 37)の見出しが、

怒りを抑えられない「韓国人という病理」「10人に1人は治療が必要」

となっているが、これは酷い。「韓国」又は「文在寅大統領」ならばまだしも、「韓国人」という約5,000万人もの対象を指定して「という病理」と断定したことは、全く「エンターテイメント」になっていない。過激なスポーツ新聞などでもこのような表現は巧みに回避しているものである。どれほどふざけてもエンターテイメントとして許されるには、守るべき最終ラインとして「誰も傷つけない」(自虐は除く)という暗黙のルールがあるべきである。それがなければ深刻な言葉の暴力に堕する。

また、見出しで「韓国人という病理」とまで極言しておきながら、その断定を支える根拠が、2015年に「大韓神経精神医学会」という団体が発表したレポートを報じた『中央日報日本語版』という2次資料1つである。しかもどのような調査と科学的根拠なのかについては全く言及がない。エンターテイメント誌だとしても言い過ぎである。

そして記事を読むと当り障りのない構成内容である。刺激的な見出しと記事内容とのギャップがかなり大きい構成である。

評価2:不適切だという外部の指摘を受けて、不適切と認識した点については遅滞なく謝罪したことは誠に適切であった。「過ちては改むるに憚ること勿れ」である。ただし、お世話になっていながら悪態をついて小学館から離れて行く作家諸氏には、全く共感できない。もちろん非難も離脱も自由であるが。

評価3:回収せずに販売を継続した点も適切である。愛知トリエンナーレが展示中止したことと比べても妥当な判断であった。

回収しなかったために、こうして現物を入手して直接自分の目で確かめることができた。お蔭でSNS上の評価や小学館を批判する人々の客観性や真実への取り組み姿勢などを知ることができた。

なお、筆者には「大韓神経精神医学会」なる団体の信頼度がわからないので、その調査レポートで主張されている「韓国成人の半分以上が憤怒調節に困難を感じており、10人に1人は治療が必要なほどの高危険群である」という結論も妥当性については全く判断できない。「間欠性爆発性障害」は、韓国人にしか起きない症状というわけではなく、発症率に国ごとの違いがある程度の問題であろうと考えている。

しかも同記事中にも、「『火病』が90年代後半にいったん米精神医学会で正式登録されるも現在では正式な疾患としては認められていない」という趣旨の記載があるが、この分野の研究は日々進歩しており、現時点での定説が将来覆る可能性も高い。

そのため、確かに韓国の人々には感情の起伏が豊かだという印象があるが、科学的根拠に基づいて慎重に評論すべきテーマであろう。

まとめ

「すぐに謝る位なら最初から書くな」という考えもその通りである。その一方、今回は内容に確かに不適切な部分があったと認め、過ちと認識した時点で速やかに謝罪した週刊ポスト編集部を評価することもできる。

毎日新聞は社説で仮説を元に厳しく論難していたが、逆に小学館の姿勢を見習って、戦略特区虚偽報道に関して今からでも誤報部分を訂正し関係諸氏に謝罪すべきである。

田村 和広 算数数学の個別指導塾「アルファ算数教室」主宰
1968年生まれ。1992年東京大学卒。証券会社勤務の後、上場企業広報部長、CFOを経て独立。