ヤフージャパンとZOZOは12日朝、ヤフーがZOZOに対してTOB(株式の公開買い付け)を行い、ZOZO側も賛同、両者が資本業務提携を結ぶことをそれぞれ明らかにした。
これにより、ZOZOはヤフーの傘下に入ることになる。また、ZOZOは合わせて、同社創業者の前澤友作氏の代表取締役退任も明らかにした。前澤氏は自身の今後について12日夕方に記者会見する。
NHKが日経に勝つ“快挙”
ヤフー傘下にZOZOが入るという話題性抜群の企業買収案件が判明し、ネット上は朝からお祭り騒ぎだが、両社の正式発表に先行してもっとも早くスクープしたのは、M&A案件では毎度おなじみの日経…ではなくNHKだった。
ヤフー ZOZOを傘下に 株式公開買い付けで最終調整 | NHKニュース
午前4時30分の「おはよう日本」で流れたあと、ネット上に記事が配信されたのは同4時38分。NHKの取材力は、新聞社も侮れないものがあるとは言え、今回のように注目度の高さが予期されるM&A案件で、日経新聞を出し抜いて特報するのは異例の展開だ。
これには週刊ダイヤモンドの元エース記者で、NewsPicksの池田光史編集長ならずとも経済報道関係者なら刮目するところだ。
それでも、NHKと日経の取材競争が「紙一重」の熾烈な展開だったと推測させるのは、日経電子版が異様にはやく出してきた追いかけ記事がそれなりに充実していたためだ。
記事は、ヤフーの正式発表後に8時51分に更新されてしまったが、初出は6時46分。その段階から、NHKの初報では「株式を売却する意向」と前澤氏の進退について踏み込めていなかったのを、日経は、最初から「退任へ」と明確に書いていた。
NHKの初報から2時間あまりなので、担当記者が泊まり勤務の記者に叩き起こされて早朝から電話取材や朝駆けで裏取りしてイチから書いた可能性も無いわけではないが、事前にある程度、情報を把握していて、なおかつ朝一に関係者に確認を取れるだけのルートを確保しているからこそ、早朝にこの短時間で追いかけられたと考えてよい。
日経の初出記事では「12日に明らかになった」と記載していたが、仮に12日朝刊の一面掲載であれば「11日、明らかになった」と書いていたことになり、もし予定稿を作っていたのであれば、その日付に11日を記載できなかった担当記者の「無念」が想像できる。
昼前になっても掲載しないヤフトピの怪
一方、メディア的に舞台裏で興味深かったのは、当事者となったヤフーのYahoo!トピックス(ヤフトピ)の反応だ。ヤフーもZOZOも正式発表したというのに、午前10時30分の段階になっても、ヤフトピには、ZOZOの4文字は掲載されていない。
その時点でYahoo!ニュースの経済記事のランキングの上位5位のうち、2〜5位がこの買収案件で占めるなど読者の関心の高さは明らかだ。
それにも関わらず、ヤフトピに掲出しないのは不可思議としか言いようがない。編集部が経営陣に忖度しているのか、上層部が編集部の動きを止めているのかはわからないが、Yahoo!ニュースはメディア・ステートメントで「多様な価値観に基づいた情報を扱う責任を自覚し、特定の権力・団体や思想・信条に与することなく、理解や判断の助けとなる場であり続けます」などと、メディアの公共的責任を謳っている。
それでいて自社のこととなると頰被りしているのは、あまりに白々しい。千葉の台風災害のニュースをこれ幸いと“隠れ蓑”にしたのであれば、実に滑稽なほど偽善的だ。
親子プラス孫上場問題は?マリンスタジアムの命名権は?
メディアの舞台裏から見たZOZOのヤフー傘下入りの動きだが、経営面では親子上場の批判が絶えないソフトバンクグループとして、今度はそこに加えて“孫”(まご…そん、ではない)の上場問題も加わる。
またプロ野球では、ZOZOが2026年までの契約で千葉市から取得したマリンスタジアムの命名権の問題もある。
具体的には、ソフトバンクの“孫会社”となるZOZOの名前が入った球場を、ロッテが本拠地にすることについて、すでに野球ファンから疑問が噴出している。野球協約では、公正な試合をするために、他球団の株式所有の規制はあるが、命名権のそうした規定はない。
だからといって、ロッテの球団、選手、ファンにとって、相手チームの身内の名前が入った球場というのは居心地がいいとは言えまい。このあたり、NPBや千葉市の対応も注目されることになりそうだ。
新田 哲史 アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」