現在の日本のメディアによる韓国関連報道は、そのほどんどが韓国政府あるいは韓国社会による日本国に対して損益を生じさせる絶え間ない不合理な行動、および日本に出自を持つ人・有形物・無形物に対する誹謗中傷に対する【批判 criticism】であり、韓国人という人種あるいは韓国国民という国籍を持つ個人に対する【差別 discrimination】でないことは自明です。
このような正当な批判に対して、日本の一部の自称知識人や一部メディアは、一部のレイシストやメディアによるほんの一握りの差別の事例と同一視してヘイトを想起する「嫌韓ムード」なる差別の風潮が日本を支配しているかのような【プロパガンダ propaganda】を展開しています。
このプロパガンダは、ときに韓国批判の論者に対する【人格攻撃 ad hominem】となり、【沈黙の螺旋 spiral of silence】を形成してその言論を封じ込める効果があります。この記事ではこのような不当な一般化の事例をいくつかとりあげ分析してみたいと思います。
虚偽の概括による嫌韓認定
戦後74年が経過した今、戦前・戦中に韓国統治政策に関わっていた日本国民はほぼ皆無であり、一方で戦前・戦中に日本から被害を受けた韓国国民も極めて少なくなっています。そんな中で、当時の韓国国民の子孫達は、当時の日本国民の子孫達に対して、現在も【戦争責任 the responsibility for the war】についての無限の謝罪と賠償の要求を無間地獄のように絶え間なく続けています。これは血縁と国籍を根拠にして人格を攻撃する【出自に訴える論証 genetic fallacy】と呼ばれる【状況対人論証 circumstantial ad hominem】であり、日本人あるいは日本国民に対する差別に他なりません。
韓国の日本に対するクレームの多くは非論理的な言いがかり、すなわち【モラル・ハラスメント moral harassment】に当たる行為です。
特に最近の反日行動は常軌を逸しており、例えば、
韓国政府による慰安婦合意に違反する慰安婦財団の解散、
韓国大法院による日韓請求権協定に違反する徴用工判決、
韓国政府による非科学的根拠に基づく日本産水産物の輸入禁止、
韓国軍による海上衝突回避規範に違反するレーダー照射、
韓国国会議長による天皇の出自(戦犯の息子認定)を根拠とする差別的な謝罪要求、
韓国政府による日本からの軍事転用物資輸入に際する不適切事例に対する改善拒否、
約8割の韓国国民による差別的な日本製品不買運動(世論調査)、
8割超の韓国国民による差別的な日本旅行ボイコット運動(世論調査)、
韓国政府による東アジアの安全保障を揺るがすGSOMIAの破棄、
韓国自治体による現在の日本企業に対する出自(戦犯企業認定)を根拠とした差別的な製品不買条例の可決、
韓国政府による東日本大震災からの復興を妨害する福島第一原発処理水に関する非科学的な問題化、
韓国政府による根拠不十分な東京五輪における旭日旗応援禁止要求
など、枚挙にいとまがありません。
その一方で、日本国民はいたって冷静であり、国民主体の大規模な韓国製品不買運動、韓国旅行ボイコット運動、反韓デモなどは全く発生していません。そんななかで一部の自称知識人や一部メディアは日本に嫌韓ムードが漂っているとする主張を展開しているのです。
このような韓国政府や韓国社会による日本に対する誹謗中傷と差別行為に対して、日本のメディアやSNSが批判するのは、当然の言論の自由です。しかしながら、日本の一部の自称知識人や一部メディアは、一部の差別行為の認定例を根拠にして日本社会に嫌韓ムードが蔓延っているかのように主張して日本社会を断罪しています。これは一部の例を根拠にして、多くの場合にその例が成立するかのように一般化する【虚偽の概括 faulty generalization / proof by example】と呼ばれる誤謬に他なりません。
嫌韓の風潮を造る一部マスメディア
2019年9月に入り、朝日新聞・毎日新聞・東京新聞は、日本メディア報道あるいは日本社会に「嫌韓」の風潮があるかのように大宣伝を始めています。
毎日新聞 2019/09/07 嫌韓あおるのやめて
朝日新聞 2019/09/16 嫌韓とメディア 反感あおる風潮を憂う
東京新聞 2019/09/17 嫌韓の空気によみがえる徴用工の記憶
毎日新聞 2019/09/21 嫌韓あおるテレビよ、これでいいのか
毎日新聞 2019/09/23 嫌韓の裏に格差と陰謀論
これらの記事はメディアによるメディア批判です。そのこと自体は非常に健全なことですが、その一方で「嫌韓」の定義が明確に示されていないため、読者が「韓国批判」と「嫌韓」とを混同する可能性があります。
そもそも、合理的証拠がないモリカケや科学的根拠のない豊洲市場の報道を連日繰り返していたワイドショーに対して、何の警鐘も鳴らさなかった一部マスメディアが、明確な根拠に基づいて批判が展開されている韓国報道について問題視すること自体が極めて奇怪です。
論理も破綻も顕著であり、特に新聞社としての見識を疑う極めてひどい記事が、毎日新聞 2019/09/23の「嫌韓の裏に格差と陰謀論」です。
「嫌韓という排外主義が吹き荒れている」「背景にはアベノミクスにも責任がある格差がある」「政権の逃げ道はいつも不満を国外にそらすことだ。対韓輸出規制はそういう機能を果たした」「もう一つの特徴は陰謀論だ」「意識的に現実から目をそらさないと気持ちよく他者はののしれない。だから陰謀論がセットでついてくる」「あなたが本当に嫌いなのは日本なのだろう」「決して自分に跳ね返ってくることがない韓国という的に罵声を投げつける心地よさが嫌韓だ」「ナチスのあおり文句の一つが「フランスと断交せよ」だった」
【陰謀論 conspiracy theory】とは、強権統治者が不正を行うと同時に証拠を隠していると根拠なく主張するものです。「嫌韓」を安倍政権の陰謀とするこの記事こそが陰謀論そのものと言えます(笑)
なお、「嫌韓」という言葉の定義も極めて曖昧です。「嫌韓」を文字通りに韓国を嫌う差別行為と捉えるのであれば、日本に「嫌韓」は殆ど存在しません。日本のテレビ・メディアは、韓国政府や韓国社会に対して批判はしますが、韓国人という人種に対する差別は殆ど存在しません。
異様なアジェンダ・セッティング
日本メディアの中には、日韓関係の本質的な動向をほとんど報じることなく、日本の嫌韓と韓国礼賛記事のみ報道する本末転倒のメディアがあります。以下は、過去1カ月におけるBuzzFeed JAPANの日韓関連記事です。
■2019/08/29
「韓国女性が入ってきたら暴行しにゃいかない」。情報番組での発言、放送局の見解は。
■2019/08/29
毎日新聞が掲載の川柳に批判→記事削除「嫌韓あおる意図なかった」広報の説明は?
■2019/08/30
情報番組が一転して謝罪。「韓国女性が入ってきたら暴行しにゃいかない」発言で。
■2019/09/02
週刊ポストの「韓国なんて要らない」特集、編集部がお詫び 批判相次ぎ
■2019/09/04
教授が「韓国女性が入ってきたら暴行しにゃいかない」。番組に今後「出演予定なし」
■2019/09/06
「今こそ『嫌韓』あおり報道と決別しよう」 韓国をめぐる報道で新聞労連が声明
■2019/09/06
「ニュースだけ見て韓国人怖いというのは違う」元AKB・大島麻衣さんが韓国で思ったこと
■2019/09/07
韓国選手の頭に日本選手が投げた球が直撃。しかし、その後の行動が世界から絶賛された。
■2019/09/07
「私は在日3世」。彼女は手を震わせながら、渋谷で聴衆の前に立った。
■2019/09/12
反日という言葉に、苦しめられている人たちがいる。「嫌韓煽動」報道にNPOが抗議
■2019/09/12
「報道や出版が嫌韓感情を焚きつけている」NPOなどが抗議声明【全文】
■2019/09/18
社員がSNS上で韓国人への差別発言、DeNAがお詫び 「あらゆる差別を容認しない」
メディア報道には【議題設定理論 agenda setting theory】というものがあります。これはあるテーマの報道量が多いとき、情報受信者がそのテーマが重要であると錯覚してしまうことです。加えて情報受信者は、その論調に影響されて、認知が一定の方向に導かれてしまいます。これを【プライミング効果 priming effect】と言います。
異様に議題設定された一連のBuzzFeedの記事を情報受信者が無批判に受け取れば、「無謬で善意の被害者である韓国人を日本社会は差別している」と認知することになるのは自明です。情報受信者は韓国に対する批判を忘れ、日本社会を批判するように誘導されます。
例えば、BuzzFeedは、2019/08/29、2019/08/30、2019/09/04の3回にわたってソウルでの日本人女性暴行事件に対する中部大学・武田邦彦教授の発言を問題視しましたが、暴行事件そのものについては報道すらしていません。
このことから、情報受信者は、武田教授の発言の方が、日本人女性に差別用語を吐いて身体と精神を負傷させた暴行事件よりも問題であるという認知に導かれるのです。また、2019/09/06の記事では、当該事件に対する韓国好きの芸能人の次のような言葉を取り上げています。
「それは人間性の問題です。私は日本で男性に声をかけられ怖い思いをしたこともあります。韓国人だから、ではなくどこの国でもその人が危険なら危険ということではないでしょうか?」「どこの国だって、自分の育った国でなければ危険は伴います。なんなら日本だって危ないところあるだろうし。外国の方が知らないところで怖い目にあってるかもしれない」
この報道を情報受信者が素直に受け取れば、武田教授の発言は日本社会の重大な問題であり、暴行事件は韓国社会の問題ではないという錯覚に陥ることになります。
さて、上述した一連の報道のうち最も問題があると考えられるのは2019/09/12の記事です。この記事では、横浜市の在日コリアン3世と名乗る女性の次のような言明を紹介しています。
「私たちはいま、生きるか死ぬかの瀬戸際にいると思っています。今の時代は、個人情報を簡単に渡せるので、突然いろんな人がやってきて、連れ出されて殺されるってことも想像しています」
ここで、youtubeにアップロードされている実際の映像を見ると、この言明の「生きるか死ぬかの瀬戸際にいると思っています。」「今の時代は」の間には次の発言があります。
実際、在日のアカウントで悲壮な呟きをしている人がたくさんいます。で、別に呑気なことは思っていなくて、私達はきっとアメリカの日系人が収容所に送られたみたいに在日の資産を凍結して収容所に送られるようなことも想像しているし、ナチスみたいにガス室に送るようなこともきっとこの国はやると思ってます。ルワンダみたいになたを持って隣人が襲ってくることも想像してます。
この発言は日本国民に対する明らかな差別発言です。憲法改正が必要となる「在日の資産を凍結して収容所に送る」「ガス室に送る」ような人権侵害の法律改正を日本国民が「きっと行う」という悪意ある妄想は、日本国民の人格を根拠なく貶める誹謗中傷です。
論敵をナチスに見立てるのは【ヒトラー論証 reductio ad Hitlerum】という使い古された悪魔化手法です。このようなヘイト・スピーチをあからさまに隠した上で「日本人の人みんなに言いたいこと」と続け、既にステレオタイプ化した日本人全体にモノ申すような演出報道は言論空間を歪めます。ただし、そのような演出が令和の時代に通用すると思ったら大きな間違いです。
大衆誘導の限界
人や物を出自で差別するなど言語道断です。しかしながら、批判を一部の差別と混同させて批判を問題視する風潮を造るのも言語道断です。インターネットがなかった時代、一部メディアは互いに示し合わせて情報操作・心理操作・倫理操作することで、意に沿わない言論を無効化し、自らの論調に情報受信者を誘導していました。
しかしながら、そのような大衆誘導は現代においては、むしろギャグに近い受け取られ方をします。インターネットで多様な言論が流れる中、大衆誘導は見透かされ、差別は自ずと批判を受けます。このような認識がない一部メディアが時代とともに衰退していくことは明らかです。
編集部より:この記事は「マスメディア報道のメソドロジー」2019年9月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はマスメディア報道のメソドロジーをご覧ください。