今、世界中で金融緩和の波が再び起きています。
欧州中央銀行は今月12日に開いた理事会で、3年半振りに包括的な追加金融緩和策の導入を決定しました。
「金融緩和」は主に下記の2種類があります。
① 金利の引き下げ
② 世の中に出回るお金の量を増やす
欧州中央銀行はその二つを実行すると言いました。EU経済の2割超を占めるドイツでは、米中貿易戦争の煽りを受け、特に自動車など製造業の生産・輸出が不振に陥っていること、またそれによって設備投資などが減っています。さらには何度もお伝えしています、イギリスがEUから離脱する件をめぐり、ヨーロッパ全体の経済が萎縮している。こういったことが背景にあるのです。
そして先週18日には欧州中央銀行に続き、アメリカの連邦準備理事会(FRB)も金利引き下げを決めました。7月に続いて連続の金利引き下げで、FRBのパウエル議長は「景気が減速すれば追加利下げが適切だ」と今後のさらなる引き下げも視野に入れています。今回は0.25%の引き下げでしたが、トランプ大統領はこれには不満で、「政策金利をゼロかそれ以下に下げるべきだ」と圧力をかけています。
こちらの背景は、トランプ大統領自身が仕掛けた米中貿易戦争にあります。中国が関税を引き上げたことによって、アメリカからの中国向け農産物の輸出が激減してるんです。農家はトランプ大統領の支持基盤ですから、来年2020年11月3日に実施予定のアメリカ大統領選挙を睨んでトランプ大統領は「経済をよくするためには金利を引き下げろ」と圧力をかけていることになります。
これら世界の動きを踏まえて我が日本銀行はどうするか。先週19日に日銀の政策委員会が年8回、金融政策の運営に関する事項を審議・決定する金融政策決定会合を開催し、「現状維持」を決定しました。というのも、国内景気は緩やかに回復しているという認識で、円高も進んでいないことから現状維持になりましたが、正直打つ手なしとも言えます。
なぜなら日本の金利はすでに実質的ゼロですよね。例えば普通預金は0.001の金利ですから、1億2000万円預金しても利息はたったの1000円です。銀行が日本銀行に預ける預金の一部はすでにマイナス金利になっていますから、これは銀行の収益を圧迫しています。マイナス金利をさらに拡大するということになれば、今度は銀行が我々の預金口座から維持手数料を徴収するかもしれません。
ということは、我々は銀行にお金を預けるだけで銀行貯金に金利がつくどころか、維持手数料が差し引かれて実質貯金額が減ることにつながります。また銀行から日銀が国債を大量に買い入れることで、市場に資金を供給する量的緩和は2013年以降もやり過ぎていると言われています。今、国が発行する国債のなんと4割は日銀が保有しているんです。
ヨーロッパやアメリカなどの世界の金融緩和は、円高リスクを高めます。円高になれば輸入品は安くなりますから物価が下がる、強いてはデフレになるというリスクがあるわけです。また輸出にも不利になりますから、輸出が減ると日本の株価が下がりかねません。
10月の消費税引き上げ、これによる消費動向と合わせて、年末に向けて日本経済はどうなっていくのでしょうか。
編集部より:この記事は、前横浜市長、元衆議院議員の中田宏氏の公式ブログ 2019年9月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。