競争政策に多用されるか:楽天に「確約制度」適用第1号事案

本日は備忘録程度のエントリーです。日経夕刊(10月1日)でも報じられているとおり、楽天トラベルを運営する楽天が、独禁法違反(不公正な取引方法)の疑いのある契約条項を自主的に撤廃したそうです。

楽天トラベルより:編集部

予約旅行サイトの競合3社が公正取引委員会から立入調査を受けていたところ、公取委から確約通知が発せられ、楽天は改善計画を示した、というもの。競争法違反の疑いのある事業者の行為について、競争当局と事業者との合意によって自主的に解決するのが「確約制度」ですが、この確約制度が適用されました。

楽天の独禁法違反の疑いは「自社サイトの予約料金が最安値になるよう契約条項で宿泊施設等に要求していた」というもので「拘束条件付き取引」(不公正な取引方法-独禁法19条違反)への該当性が問題とされています。しかし、上記のとおり確約手続きが適用されましたので、楽天に違法行為は認定されずに解決しています。日経や読売が報じるところでは、昨年12月末に施行された「確約制度」の第1号事件だそうです。

競争政策のグローバル化が進み、TPP11協定の「競争政策章」のなかで国内施行が決定した確約手続ですが、競争法の執行には人的・物的資源を要しますので、「法執行の国際標準化」という意味でも確約手続の活用には大きな意義があるように思います。「優越的地位の濫用」をはじめとする「不公正な取引方法」の排除は、GAFA問題で揺れるプラットフォーマーへの適用、リクナビ問題で話題となった個人情報保護法との関係整理、そして吉本興業事例で議論された「働き方改革」(フリーランス保護)への独禁法適用などでそれぞれ問題になり、企業規制において公正取引委員会の活躍の場は急激に広がりそうです。とてもじゃないけど公取委の現有資源では「法執行」において追い付きそうにないはずです。

そこで「疑いがありますよ」といった確約通知を事業者に発出して、事業者の側で公取委の要望する行動を任意にとるのであれば、これは人的・物的資源の大きな節約になりますね。先日、消費税増税直前に(恥ずかしながら)私が社外取締役を務めるD社が消費税転嫁対策特別措置法違反で公取委から勧告を受けましたが(たいへん申し訳ございません<m(__)m>)、このたびの楽天さんの確約制度適用も何か象徴的な事例になりそうな予感がします。

今後は、ひょっとすると確約制度も公取委によって多用されるかもしれません。ただ、コンプライアンス経営を重視するあまり、なんでも認めてしまうのも「グレーゾーン対策」としては問題です。楽天と同様、公取委から調査の対象とされた残りの2社がどう対応するのか、そちらも興味がありますね。

山口 利昭 山口利昭法律事務所代表弁護士
大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(1990年登録 42期)。IPO支援、内部統制システム構築支援、企業会計関連、コンプライアンス体制整備、不正検査業務、独立第三者委員会委員、社外取締役、社外監査役、内部通報制度における外部窓口業務など数々の企業法務を手がける。ニッセンホールディングス、大東建託株式会社、大阪大学ベンチャーキャピタル株式会社の社外監査役を歴任。大阪メトロ(大阪市高速電気軌道株式会社)社外監査役(2018年4月~)。事務所HP


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2019年10月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。