アゴラさんに私の論文が優秀賞をとったことを掲載して頂きましたが、
依存症学会でまさかの優秀論文賞!画期的な研究「LOST」とは?
昨日10月8日より3日間にわたって、読売新聞のヨミドクターさんで私の特集をして下さっておりますので、是非、こちらもご一読下さい。
「ギャンブル依存」は病気だったの!?(上)競艇の刺激に耽溺した「彼」と「彼女」の苦悩
「ギャンブル依存」は病気だったの!?(中)意思の力では抜け出せない深い沼から
こうやってギャンブル依存症のことを改めて考えて見ると、ギャンブル依存症はやはりアルコールと・薬物とは違った側面があり、やはりギャンブル依存症ならではの部分を解決するプログラムが必要だなぁと改めて思うんですね。
もちろん、依存症というのは根っこは同じなので、先行しているアルコール・薬物と同じプログラムで、いけちゃう部分もあるのですが、そうじゃない部分もある…
けれどもではその違う部分に効くプログラムってなんなの?って言われたら、それは私にもまだよく分からないです。
だからその謎の部分の調査や研究を広げたり深めたりしていく必要性をヒシヒシと感じています。
この「アルコール・薬物依存症の人達と何かが違う…」というのは回復施設に関わってみると良く分かることで、大体、ギャンブル依存症の回復施設というのは、アルコール・薬物の回復施設から派生していたり、アルコール・薬物の人と一緒にプログラムをやっていたりするんですね。
だから施設関係者と話すと皆さん「やっぱりギャンブルは何かが違う…」ということを、私と同じように肌感覚でもどかしさを感じておられるようなんですね。そして面白いことに、ギャンブル依存症のスタッフ自身もその違いを感じているんですよね。
では、私自身そして施設の関係者の皆さんと感じるその違和感や経験値はどんなところか?書き出してみますね。
1. 比較的簡単に短期間は止められるが再発が多い
回復施設では、途中でドロップアウトしてしまう人が多いものですが、アルコール・薬物の人達に比べ、ギャンブルは施設での定着率は良いのです。けれども就労プログラムで社会復帰が見えてきたり、実際に社会復帰するとすぐに再発してしまいます。「折角、ここまで頑張ってきて何故!?」と思うことが多いのです。
2. 仲間意識が薄く面倒見が悪い
アルコール・薬物の人達に比べて、仲間への関わりが薄くて、人間関係に壁があります。
施設内でも「良い子」で過ごすことは得意ですが、他人事に手を差し伸べることが少ないです。
実際、ギャンブル依存症は、病院や精神保健センター、保護観察所、刑務所などなど、社会に対するメッセージ活動も一番少ないのではないでしょうか?
3. モラルの欠如と身勝手
世の中の人は誤解していますが、例えば薬物の自己使用等に比べて、我々ギャンブル依存症者が周りに迷惑をかける影響力は格段に大きいです。家族のお金を当然のごとく自分のお金と思っていることはもちろんですが、窃盗や万引き、横領など被害者のでる犯罪行為に一番手を染めやすい依存症です。
自己使用の薬物の人がつく「またやってるだろう!」「やってないよ!」という嘘よりも一段たちが悪く、「やってないよ!」と言いながら、その人のお金を盗んでいたりします。その上、迷惑をかけた人への埋め合わせで「きちんとお金を返す」という段階になると、突然ケチくさくなり、自分のお金を出すのは極端に嫌がります。
4. 優秀な学歴や花型スポーツ選手、一流企業の入社経験
ギャンブル依存症の人達は学歴の高い人、スポーツの花形選手だった人、公務員やマスコミなど人気の会社に入社した経験を持っている人が多いです。
5. 独立心が低い
4.の様な経歴をもちながら、自分が頭に立って何かをやろう!という人が殆どいません。
現にギャンブルの回復施設はとても少なく、あってもそのほとんどがアルコール・薬物の施設の方がはじめたものです。
6. 感情をださない、だせない
理屈は得意ですが、自分の感情を見ることや、感情を表現することが苦手です。
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もちろんこれらの特徴が全員にあてはまるわけではありませんし、回復の度合いによっても変化があります。
けれどもこうしてあげてみると、ギャンブルにはギャンブル特有の、人格の変化に繋がる何かが必要ではないか?と思えてならないのです。
多分ギャンブラーというのは、優秀な子ども時代だったり、頭の中が論理的な人が多いんですよね。
親の期待に応えてきた良い子達も多く、期待に応えられるポテンシャルもあった。けれどもそうやって自分の感情ではなく、他人の願いどおりに生きることで、自分の感情を押し殺すクセがついてしまったのかもしれません。
「優秀でないと見捨てられてしまう」という恐怖心を幼い頃から抱いて育ち、しかも親もさっさと見限ってくれるくらいなヤンチャだったらまだしも、一流企業に入ったりして、大人になってもその期待値は続いちゃうわけですからね。
そしてその親や周囲の期待の声は、だんだん自分の間違ったプライドとして植え付けられていくんですよね。
だから勝負事へのこだわりが強くなっていく、このあたりもギャンブル依存症になる背景に関係あるかもしれません。
私もそうですけど、とにかく負けず嫌いですからね。
またこうやって競争にさらされてきた人は、疲れてきますよね。
そして他人との比較による競争というのはやればやるほど、自分の自信を奪われるんですよね。
だって必ず上には上がいて、それがステージが上がるごとに見えちゃうわけですからね。
なので依存症者はみなそうですけど、ギャンブル依存症者は特に「高いプライドを持った低い自尊心の人」が多い気がします。
このあたりの背景はアルコール・薬物の人も持ってますけど、特にこういった人達がかたまりとして多いのがギャンブル依存症の特徴だと思うんです。
どちらかというと感情に振り回されるのが薬物などの物質依存、感情が出せずしまいこんで、一人で闇に落ちていくのが行動依存そんなイメージがあります。
だから今医療を中心に広まっている、薬物依存の人達のプログラムをギャンブルに置き換えただけのプログラムは、全然ピンとこないし「ギャンブルの調査や研究を行った上で、きちんとプログラムを作って欲しい」「代替え品ばかりを広めないで欲しい」「我々の声を聞いてプログラムを作って欲しい」と心から願っています。
ギャンブルはろくな基礎研究が出てないのに、置き換えプログラムばかり増えている…
この状況を打破していきたいです。
田中 紀子
公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表
国立精神・神経医療センター 薬物依存研究部 研究生
競艇・カジノにはまったギャンブル依存症当事者であり、祖父、父、夫がギャンブル依存症という三代目ギャン妻(ギャンブラーの妻)です。 著書:「三代目ギャン妻の物語」(高文研)「ギャンブル依存症」(角川新書)「ギャンブル依存症問題を考える会」公式サイト