11月8日~9日にソウルで国際学術会議「サンフランシスコ体制を越えて」が開かれることは10日に拙稿で既報した。11日の朝鮮日報が会議の参加者の一人アレクシス・ダデン米コネティカット大学教授にインタビューした記事を報じている。
この根っからの反日学者らしい応答が載っているので、以下にその記事に沿い要旨を紹介する。
「2028年に開催される米ロサンゼルス五輪の競技場で、人種差別と白人至上主義の象徴である『南部連合旗』を振ったとしたら、果たして全世界が納得するでしょうか」、ダデン教授の言葉だ。ダデン教授は先日、英ガーディアン紙に「来年の東京五輪で日本の旭日旗を禁止しなければならない」というコラムを掲載し話題を集めた。
ダデン教授は「米国の人種主義者と日本の極右勢力は、奴隷制や慰安婦強制動員といった歴史的事実を否定したり、歪曲したりするという共通点がある。そうした点で、彼らは『歴史否定論者(denialists)』だ」と言った。
「平和の祭典である五輪で、第二次世界大戦時における日本帝国主義の侵略戦争を象徴していた旭日旗を振るのは、韓国だけでなくほかの被害国にも傷を与える政治的行為だ」「中国・シンガポール・フィリピン・ミャンマーなどで五輪ボイコットの動きが広がる前に、国際オリンピック委員会(IOC)が旭日旗を禁止しなければならない」と述べた。
ダデン教授は会議で、「東アジア同盟国間の確執 米国の汚れた秘密」をテーマに発表した。「韓日関係が最悪の方向に向かっている裏には、米国の責任が少なからずある」という自己批判的な主張だ。米国は北東アジアの安全保障や経済で韓日両国を最優先の同盟国として認識しながらも、歴史問題では「当事国同士が判断して解決する問題だ」として傍観する姿勢を見せているということだ。
ダデン教授は、戦後の米国の外交政策には日本の利害関係を優先視する「偏愛現象」が存在したと批判した。そして、「米国が日本の高官や企業といった強者の言葉だけに耳を傾けるとすれば、強制動員被害者のような弱者の声が耳に入るだろうか?」と反問した。
「冷静な国際関係で過度に理想的なアプローチをしているのではないか」という質問に、ダデン教授は「国際法こそ国家間の鋭い確執を調整するための理想主義の産物だ。国際人権問題ではこの20年間、そうした傾向が強まっている。歴史問題に目をつぶる日本こそ、その例外ではないだろうか」と述べた。
以上、日韓の対立に加え、GSOMIAや在韓米軍駐留費の負担問題で米国が青瓦台に強烈な圧力を掛けているこの時期に、韓国民の多くが留飲を下げるのに打って付けの発言だ。会議を講演した東北アジア歴史財団などがこのタイミングで話して欲しいことを、まさにシナリオ通りに語っている。
目下の日韓係争の焦点になっている「国際法」をダデン氏は人権問題の拠り所にしているが、大法院判決が国際法に反するとし、国際司法裁判所に行こう、とする日本の主張を果たしてどのように考えているかも、是非とも一言語ってもらいたいところだ。まあ二重基準だろうけど。
この記事を読んで青瓦台や少なくない韓国民がさぞかしはしゃいでいることだろう。が、それはダデン教授が斯界で確固たる評価を得ていればこその話であって、彼女の評判は拙稿で一部述べた通り甚だ芳しくない。以下に「日本の朝鮮統治を検討する」(草思社)からダデン批判を引いてみる。
彼女の研究論文の随所に見られるのは、どうにも学者らしからぬ意味不明かつ一方的な記述の羅列と、時に史実の立証が不可能な出来事に基づく、単純にして怪しげな結論なのである。(ハワイ大学ジョージ・アキタ教授)
ダデンの研究は本当に彼女の先輩たちの研究に「勝るとも劣らない」のだろうか。私の判断では、この著作はよほど大幅な整理がなされない限り、決してそうとは呼べない代物なのである。(ジェームス・バクスター国際日本文化センター元研究員)-
ダデンと版元は、研究者としての彼女の経験に関して様々な問題があるにも拘らず、(不完全な論文を)出版するという、若い研究者にとって良からぬ前例を作ってしまった。・・この分野の先輩諸氏から同業者として尊敬されるためには、刺激的な論文を作成しようとして、威勢がいいだけの主張をするのはやめにして、(史実に基づいて)詳細に至るまで論文を整理し直す必要がある。(バクスター氏)
明治政府の指導者たちと朝鮮植民地政府に関するダデン女史の見方は偏っている。私としては「伊藤博文だったら朝鮮を決して併合しなかったに違いない」とか「拷問を是認した」とかの主張があるという記述の、もっと納得のゆく根拠が知りたいところだ。(アキタ教授)
(ダデンが「朝鮮陰謀事件」で)「何百人もの朝鮮人が収監され、拷問を受け、場合によっては撲殺された」と非難する文言がまことに曖昧なため、私は彼女が記した脚注を調べた。そこに見たのは、このテーマに関して歴史資料館で簡単に入手できるような参考文献のリストだった。これは歴史学者として余りにもマナーに欠けたやり方である。(アキタ教授)
(ダデンは)「日本の植民地支配の最初の10年間、とりわけ最初の数年間に注目することが重要である。なぜならそれは特別に残忍な期間だったと思われるからである」と主張する。だが彼女の著作の(その箇所の)脚注を見ると「特別に残忍な」という文言の根拠となる情報源は記されておらず、代わりに「日朝融和」の問題とダデン女史の主張をほぼ否定する証言からなる口述記録をもとに書かれたヒルディ・カン女史の著作に読者の注意を向けていることが見て取れる、これはいわゆる囮商法的記述の好例であり、学者として許される行為ではない。(アキタ教授)
他にも多々あるが、以上でも充分にダデン教授の歴史学者の名に値しないレベルの低さ、いい加減さが判るだろう。
そういえば、「レイプ・オブ・南京」を書きのちに拳銃自殺したアイリス・チャン(1968年-2004年)とほぼ同世代。
さらに、Wikipediaにある経歴によると、ダデン教授の父親はフルブライト奨学金事務局の元事務局長で、91年にコロンビア大学卒業、98年にシカゴ大学で歴史学博士号取得、この間91~92年に慶応大学、95~96年にフルブライト奨学金で立教大学に留学し、94年に延世大学で語学を学んだとある。
これらを見て筆者はダデンが、アイリス・チャン的な存在であることに加えて「親の七光りで肩書の箔をつけたような人物」に思えて仕方がない。
ここしばらくの間、この偏向した国際会議に馳せ参じたダデンやマコーマックや和田春樹や戸塚悦朗らの同工異曲の発言が韓国紙の紙面を賑わすことだろう。自業自得とはいえ、こういう学者らの無責任な発言を真に受けてさらに真実を見失う韓国民が、筆者は不憫でならない。
高橋 克己 在野の近現代史研究家
メーカー在職中は海外展開やM&Aなどを担当。台湾勤務中に日本統治時代の遺骨を納めた慰霊塔や日本人学校の移転問題に関わったのを機にライフワークとして東アジア近現代史を研究している。