沖縄の地方2紙については、私とは政治的立場が真逆であり、県内では全国紙もほとんど配布されていない寡占体制でありながら、2紙とも左派の論調ということが県民の世論形成をいかに歪めてきたかは言うまでもない。
しかし、メディアとしての立場はさておき、本土の記者が彼らのスクープを「ひょう窃」した疑いがあるのであれば、広い意味での同業者として看過できまい。
沖縄タイムスの阿部岳編集委員が、独自入手したJパワーの内部文書に基づいて特ダネを放ったのが24日の朝刊だった。
首相補佐官、米軍ヘリパッド建設で便宜打診か 「海外案件は何でも協力」内部メモを本紙が入手【メモ全文あり】
これによると、東村高江の米軍ヘリパッド建設を巡り、和泉洋人首相補佐官が、Jパワー側に建設協力を求める代わりに「海外案件は何でも協力します」と取引を持ちかけたというものだ。執筆者の阿部編集委員の反安倍政権の偏向ぶりはさておき、不倫騒動と山中伸弥さんいじめですっかり時の人になった和泉補佐官がどういう立ち回りをしていたか、政権の沖縄政策の生々しい一端を知る上で興味深い。
ところが、東京新聞が27日付の朝刊で、かの望月衣塑子記者の署名で次のような記事を掲載した。
沖縄県東村(ひがしそん)高江の米軍ヘリコプター離着陸帯(ヘリパッド)建設を巡り、和泉洋人(いずみひろと)首相補佐官が二〇一六年九月、建設現場の隣接地域に施設を所有する電源開発(Jパワー、本社・東京)の会長を官邸に呼び、建設への協力を求めていたことが明らかになった。本紙が入手したJパワーの内部文書には「海外案件は何でも協力しますから」と記されており、協力の見返りに同社の海外事業への支援を伝えていた。(望月衣塑子)
望月記者の「明らかになった」「本紙が入手した」という威張った書き方からすると、何も知らない東京新聞読者は、同紙のスクープのように勘違いしそうだが、なんのことはない。書いてあることは沖縄タイムスの特ダネと同じで、ただの「追いかけ」記事に過ぎない。ところが望月記者の記事の中には、「沖縄タイムス」の先行報道であることの但し書きはない。
この手の文書入手系のスクープ記事を追いかける場合、大半は文書を載せられた当事者(本件はJパワー)が記者発表をするなりして、報道各社が抜かれたことをごまかすパターンが多い。
今回は「政治案件」だからかJパワー側から特に発表はなかったようで、文書を入手しようと努力し、一から確認しようとした望月記者や東京新聞のスタンスは、そうしたよくある追いかけ報道よりはマシかもしれないが、だからといって本当の初報は沖縄タイムスであることには変わりはない。
メディア関係者の間では、この記事の扱いを巡って保守寄りからリベラルの人たちまで、SNSでちょっとした議論になっているが、いつもは望月記者寄りなリベラル系の人たちも批判的な印象だ。その中では「沖縄の地方紙のスクープで本土の人が読んでないからバレないと思ったのではないか」といった指摘も出ている。
万一、そんな浅はかな邪心で「偽装スクープ」をしたのだとしたら、地方紙といえども、主要ニュースの多くはヤフーニュースやスマートニュースなどを通じて全国で読まれている実状をよくわかっていないとしか思えない。
それが邪推だったとしても、日本の大手メディアの先行報道ソースを軽んじる風習が厳然と残っているのは世界的にも異様だ。週刊誌については文春などが抗議を続け、近年ようやく媒体名を入れられるようになってきたが、ネットメディアは相変わらず無視されがちだ。地方紙はもう少しマシな位置付けかと思ったが、東京新聞と沖縄タイムスは同じ地方紙でありながら、やはりここでもメディア業界の旧態とした序列意識の存在を印象付けている。
望月記者と東京新聞は、菅官房長官による取材拒否騒動の折に援護の社説を掲載した沖縄タイムスに対して、なぜ軽んじた対応をするのであろうか。実際、望月記者は過去にも次のようなツイートをして沖縄蔑視をする保守系論者を批判していたのにだ。
結局のところ、望月氏も東京新聞も、沖縄に対するリスペクトを口にしたところで、所詮、安倍政権憎しの中での攻撃材料として利用しているのに過ぎないのではないか。メディア業界にも本土から沖縄に対する蔑視が存在すると言われても仕方あるまい。
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新田 哲史 アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」