元日未明のNHK総合「今夜も生でさだまさし」で、小野文恵アナが「“事情”があり19日からの放送となります」と説明があったように、2週間延期されていた2020年大河ドラマ『麒麟がくる』。満を辞してきょう19日に第1回の放送日を迎えるが、ツイッターでは数日前から「相次ぐ期待の声」がトレンド入りするなど、ネットでは(生)温かく見守る人も少なくないようだ。
一般のネット民だけでなく、ネットメディアからもポジティブな期待を寄せている。
NHK大河『麒麟が来る』 今回は期待できそうと感じる5つの理由(NEWSポストセブン)
作品にかかる重圧は、今回の放送延期理由だけでない。昨年の『いだてん』の年間平均視聴率(ビデオリサーチ、関東地区)が8.2%と史上最低、それも初の一桁に落ち込んでしまった。今回は3年ぶりに定番人気の戦国もので、長谷川博己さんという完成度の高い演技派を主演に据えたことからもうまくいく予感はする。
ただ、去年の数字が悪すぎたので、V字回復はやさしいという見方もあるが、いまのご時世、視聴習慣が多様化してリアルタイムでの視聴に意義が薄れているし(私も近年の大河は録画観賞)、競合も民放だけではなく、YouTubeやAmazonPrime、Netflixなども視聴時間争奪戦の強敵として君臨している。
だから、安易な楽観もできないのだが、NHKのお金の使い方を巡って世論は厳しいご時世だけに、2020年代で、昨年の「いだてん」ほどではないにせよ、視聴率低迷が長期化すれば「打ち切り」だってありうるだろう。局側も“先手”を打つように、まだ2020年の大河が始まっていないというのに、2年も先の大河作品を発表して、三谷幸喜さんにおもしろおかしくプレゼンさせているあたりは、一昔前には見られない光景だった。
その意味でも2020年代の大河の命運を占う上で、トップバッターの『麒麟が来る』には重圧も大きいだろうが、小学2年だった1983年の「徳川家康」(主演:滝田栄)からほぼ毎年大河を観てきた者として、過去視聴率の動向も踏まえて占ってみよう。
まず俗に歴代の大河では「戦国ものは当たるが、幕末ものは当たらない」と言われ続けてきた。この風説の典型的な根拠としては、昭和終盤と平成の端境期の動きにあろう(表参照)。
オールド世代は覚えておいでだろうが、バブル直前、大河はNHKの経営合理化のあおりで一時期、時代劇を取りやめた。
初めて見た大河が『徳川家康』だったので、翌年から現代劇になってしまったときの落胆はいまでも覚えているが、実際、平均視聴率は『徳川家康』が31.2%だったのに対し、太平洋戦争が舞台だった翌年の『山河燃ゆ』が21.1%、明治〜大正期を描いた『春の波濤』が18.2%と転落。その次に戦後を舞台に女医を主人公にした『いのち』は、橋田寿賀子さんの名脚本もあって29.3%で回復したが、NHKは近現代路線から撤退した。
そして、翌1987年、いまや世界的名優になった渡辺謙さん主演の『独眼竜政宗』が39.7%と爆上げし、続く『武田信玄』も成功。これで時代劇を基本にする路線に戻った。
ところがNHKは調子に乗って、またも経営の都合で大河をいじって失敗する。92年の『信長』から子会社に制作を任せたはいいが、1年に1作の慣例を破り、沖縄を舞台にした『琉球の風』は半年放送。続く奥州藤原家を描いた『炎立つ』と応仁の乱を描いた『花の乱』はそれぞれ9か月の限定放送。放送スケジュールもだが、大河で初めて描く時代や地域とあって「実験色」が強すぎ、視聴者に受け入れられなかった(表参照)。
このまま大河は沈むかに見えたが、1995年の『八代将軍吉宗』で前年比12%アップの大河史上最大のV字回復。その勢いで翌年は竹中直人さん熱演の『秀吉』も通年で30%の大人気となった。なじみのあるキャラクター、ストーリーもねあかで、わかりやすかった。
ここまで見てきて、幕末・近代は当たらないという定説は、平成初期の西郷・大久保の活躍を描いた『翔ぶが如く』が前年比9%ダウンだったことや、まさに昨年、昭和戦後期までを初めて描いた『いだてん』の墜落で一見説得力を持ちそうだが、2008年の『篤姫』は今世紀の大河で最も高い数字だった。『篤姫』の成功要因としては宮崎あおいさんの魅力で、若い女性ファン層の開拓が指摘されていたが、視聴者の価値観多様化の時代にあって、定説は必ずしも当たらないとも言える。
ただし、大河の歴史で明らかなのは、先述したように「実験色」を強めてしまうと、うまくいかないことが多かったことだ。『いだてん』は私は傑作だとは思ったが、「大河ドラマはかくあるべし」という本流の中高年視聴者には受け入れられなかったと見ている。
いずれにしても、平成の30年で平均視聴率が目減りしたことを考えると、結局「大河ファンだから大河を観る」という私のような人は少数派になったといえる。いまのご時世は、「宮崎あおいが素敵だから『篤姫』を観る」「戦国ものなら見てみるか」というように、視聴者層の流動化・多様化が進んでいるのは確かで、作品の成功は、ターゲッティングと作品の完成度、さらにはネットも巻き込んだ話題作りの成否次第なのだろう。
紆余曲折を乗り越えて始まる『麒麟がくる』。これまでの法則にハマるか、あるいは良くも悪くも型にはまらない反応をもたらすのか。ひさびさの戦国ものだけに楽しみにしている。
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新田 哲史 アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長
読売新聞記者、PR会社を経て2013年独立。大手から中小企業、政党、政治家の広報PRプロジェクトに参画。2015年秋、アゴラ編集長に就任。著書に『蓮舫VS小池百合子、どうしてこんなに差がついた?』(ワニブックス)など。Twitter「@TetsuNitta」