動かぬ為替の行方

岡本 裕明

最近たまに耳にするのが「為替が動かない」という話です。為替は乱高下しないことに越したことはなく、動かなくて困るのはFXをするトレーダー達かもしれません。しかし、動きが鈍くなったのにはそれなりの理由があるはずです。ここを考えてみたいと思います。

写真AC

円ドル相場を2012年から見てみると民主党時代末期に70円台後半だった円ドルは安倍政権になったこと、黒田総裁のバズーカ砲などがあり15年7月の125円まで2年半で55円も円安に向かいます。しかしこのころから様相は変わります。

円ドルチャートを月足でみると15年7月から今日に至るまで三角持ち合いという形を形成しています。これは通常、相場が煮詰まっているとも言い、最後にどちらかに「放れる」とされます。さて、本当に「放れる」のか膠着がいましばらく続くのでしょうか?

私は個人的に好きではないのですが、ジム ロジャース氏が安倍首相の経済政策をまるで評価してません。その一つに円安を誘導したことを完全なミスと評しています。自国通貨は強い方がいい、というわけです。私はこれについては一定の理解があります。

円相場が70円台だった頃、日本経済には悲壮さすらあったのですが、個人的にはおかしいと思っていました。輸入側に立てば円高は日本にとって原材料が安くなるわけで都合がよかったはずです。また、2010年ごろには輸出産業は現地化が進んでいたこと、為替は先物予約とデリバティブで影響を受けにくい対策を企業がたて始めていました。

当時のソニーや東芝はそのようにコメントしていたし、ユニクロのファーストリテイリングも2-3年先まで為替予約していて一昔前ほど為替が日本経済に影響したとは言い切れなかったかもしれません。

実際には民主党政権時代は政策運営に悲壮さと未熟さがあったわけでその際に為替がおもちゃにされたような気がするのです。一方、黒田総裁の金融緩和政策は為替には有効だったといわざるを得なくなります。

もちろん、日銀の政策が為替を主眼としたものではなく、国内経済の活性化であり、為替相場は付随的な結果であると説明したわけですが、結果として円安になった日本は株式市場が活性化し、元気になったとみられているわけです。

では2015年以降に始まる為替の硬直化はどう見るのか、です。2016年はそれでも98円台から118円台まで20円幅で動きます。17年は118円台から107円の11円幅、18年は104円から114円の10円幅、19年は104円から112円の8円幅です。しかもこの幅には為替が一時的に大きく変動したフラッシュクラッシュが入っており、実質的な幅はもっと狭くなります。

一つには日銀の金融緩和政策が行き詰まったことでサプライズ感がなくなり、為替変動の材料にならなくなったことはあるでしょう。ただ、私はそれ以上に世界的に為替の変動率が落ち着いているのはアメリカを主導とする世界経済が比較的安定していて恩恵を受けていた日本とのリンケージが進んだことが主因ではないかとみています。

トランプ大統領はドルが高すぎると文句を言い、FRBは金利を3度も下げたのにドルが世界通貨に対して弱まることはありませんでした。これはアメリカ経済が安定していることが背景だと断言してもよいと思います。

次いで世界の金融市場が比較的安定していることもあります。一時は銀行システムがぜい弱となり、金融不安の声もありましたが、金融安定化システムがより強化されたことで国家運営に安定感が生まれていることはあるでしょう。ある意味、非常に強固な資本主義経済システムが形成されているともいえそうです。

ではこの安定はいつまで続くのか、ですが、少なくともアメリカ大統領選挙までは大丈夫だとみています。問題は選挙で下馬評通りトランプ大統領が再選される場合と民主党候補が勝利する場合ではシナリオが大きく変わります。また、民主党候補でも中道左派の候補者となるのか、ウォーレン氏やサンダース氏のような極端に左寄り政権が誕生するのでは大違いであります。(個人的には左翼政権がアメリカで誕生することはないと思いますが。)

仮にトランプ大統領が再選されてもアメリカ経済がいつまでもカンフル剤で活性化し続けるかどうかは微妙であります。現在のアメリカは傍で見ていると「能あるものだけが勝ち抜ける」ような社会になっています。その他一般市民がおこぼれを頂戴するような感じでしょうか?これでは長くは続かないとみていますし、エコノミストはアメリカの2020年経済成長率は世界平均に届かないとみる向きが増えています。

とすればアメリカ主導の安定経済から欧州、日本などが主導する安定経済にバトンタッチする公算はあり、これは円高となる要因になるかもしれません。ただ、アメリカ経済がそこまで悪化するとも思えず、かつてのような派手な為替の動きは目先予想しにくいのかもしれません。

しかし、冒頭にも書きましたように為替の安定化ほど世界経済にとって良いことはないのです。これによりビットコインのような暗号通貨や代替通貨の需要は下げられるわけで当然ながらそのあたりはユダヤが主導する経済システムのプランの中で動くようになっているのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年1月23日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。