新型肺炎が提示する現代人への教訓

中国湖北省武漢市で新型コロナウイルスが発生して11週間が過ぎた。予想されたことだが、新型肺炎は欧州全土にも広がってきた。フランスを皮切りに、ドイツ、イタリア、スぺイン、オーストリア、クロアチア、ルーマニア、ギリシャなどで感染者が確認されている。その中でもイタリアは最大の感染地となってきた。26日現在、374人の感染者が出て、12人が亡くなっている。フランスでも2人目の犠牲者が出た。

▲国民にパニックにならないように警告するオーストリアのネーハマ内相(2020年2月23日、オーストリア内務省公式サイトから)

27日朝、いつものように家人と朝食を共にした。話題はやはり新型肺炎になった。オーストリアでも25日、チロル州で新型コロナウイルスの感染者2人が見つかったこともあって、話す内容は前日より深刻となってきた(音楽の都ウィーンで27日、新型肺炎の初の感染確認者が出た。72歳の男性)。

妻によると、近くのスーパーでも水や缶詰類が良く売れ、トイレットペーパーなどは品切れのところもあるという。妻曰く、「人は水があって、魚の缶詰でもあれば何とやっていける。新型コロナウイルスが来る前は、ショッピングモールで必要以上の買い物、おいしい食べ物、グルメなどに人が集まり、人は結構贅沢な暮らしをしてきたが、今回のようなことがあれば、人は生きていくためには水とわずかな食べ物で十分だということが分かる」という。そして、「人々が不必要な外出を控え、家で留まる時間が増えたこともいい。本を読んだり、家人と話したり、食事ができる喜びを改めて発見できる」というのだ。

妻は多くの犠牲者が出ている新型コロナウイルスに感謝とまではいわなかったが、どんな嫌な出来事も全てが悪いのではなく、受け取り方次第ではいい面も見つかる、という普遍的な事実を強調したかったのだろう。家人の意見だからいうのではないが、正論だ。

全てのもの、事象にはマイナスの面だけではなく、プラスもある。逆に、全てがマイナスだけだ、ということもない。デュアル・ユースだ。新型コロナウイルスの場合も考え方次第では何かプラスの側面が見つかるのではないか。

ビートルズ後の最大のBritpopの「オアシス」メンバーだったリアム・ギャラガーがウィーンでコンサートを開いたばかりだ。リアムのファンにとってラッキーだった。新型コロナウイルスが欧州で急速に拡大した今だったら、リアムのコンサートはキャンセルになっていたかもしれないからだ。実際、最近はコンサートは中止になり、サッカー試合も観客なしで行われることが多くなった。ファンにとっては寂しいことだ。

欧州のキリスト教会では信者が集まる礼拝やイベントを中止したり、入口にある聖水を置かないところも出てきた。まもなく復活祭(イースター)を迎える。世界のキリスト教信者にとって最大の宗教イベントだが、無事開催されるか現時点では分からなくなったきた。

多くの信者が集まる教会の礼拝は新型コロナウイルスにとって最高の感染拡大チャンスだ。韓国で新興宗教団体の集会が開催され、そこで多くの信者が新型コロナウイルスに感染したばかりだ。同じことが欧州の教会でも起きるかもしれない。

イタリアで新型コロナウイルスの拡大が止まらない場合、バチカンのサンピエトロ広場のイースター記念礼拝は中止され、教会内で細々と開催することになるかもしれない。カトリック教会史でもなかった事態だ。中国政府のウイルス専門家たちは、「4月末までに新型コロナウイルスを基本的に制御できる自信がある」と表明した。それが事実となることを願うが、そうならない場合のシナリオを考えておかなければならない時だろう。

83歳の高齢のフランシスコ教皇も多くの信者が集まるイースターで感染でもすれば、年齢が年齢だけに命とりになる危険性がある。中国の感染者データによれば、80歳以上の人間の致死率は他の年齢層より高いのだ(「データが示す新型肺炎患者の特徴」2020年2月22日参考)。

リスボン大地震(1755年11月)、スペイン風邪(1918~20年)で多くの欧州人が犠牲となった。当時の欧州知識人たちは、「神は何処にいましたもうたのか」と問いかけ、神の不在を嘆いた(「大震災の文化・思想的挑戦」2011年3月24日参考)。

人は逆境に陥らない限り、喧噪な日々の生活で忘れていた大切なもの、自分の生き方を深く考えることは少ない。新型コロナウイルスはそんな現代人にもう一度、原点に帰る機会を提供しているのではないか。

地球温暖化、新型コロナウイルスの拡大、いずれも取り組まなければならない課題は地球レベルとなってきた。私たちは思考の飛躍を願われているのかもしれない。現時点では、新型コロウイルスへのワクチンが一刻も早く造られ、感染が抑えられることを願うだけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年2月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。