生物・化学兵器は核兵器より怖い!

長谷川 良

国際原子力機関(IAEA)の今年最初の定例理事会が9日、5日間の日程でウィーン本部で始まる。それに先立ち、ラファエル・グロッシ事務局長はイランの核問題に対する最新の報告書を公表した。

それによると、2015年の核合意で規定された濃縮ウランの貯蔵量は六フッ化ウランで300キロに制限されていたが、2月19日の時点で1510キロに達している。濃縮度は3・67%から4・5%に引き上げている。同時に、テヘランの未申告施設でウラン粒子が見つかり、イランが不法な核関連活動をしている疑惑が再び浮上してきた。

▲新型コロナウイルスの対策に取り組む研究団(2020年2月4日、新華社公式サイトから)

当方はイラン、北朝鮮関連活動をフォローしてきたが、新型コロナウイルスが発生して以来、核兵器より生物・化学兵器のほうが国際社会の脅威ではないか、といった思いを深めている。なぜなら、核兵器はもはや「使用不可の大量破壊兵器」となった感がある一方、生物・化学兵器は今なお秘かに製造され紛争地で使用されている現実があるからだ。

中国湖北省武漢で発生した新型コロナウイルスは中国本土ばかりか、アジア、欧州、中東、南北米までその感染地域を拡大してきた。世界的流行の様相を深めてきたが、発生源については、武漢市の「海鮮市場説」から、「中国科学院武漢病毒研究所流出説」まで、さまざまな憶測が流れている。

はっきりしている点は、中国から始まったということだ。だから、中国政府は国際ウイルス専門家たちと共同でその防疫対策だけではなく、発生源について、世界が納得できる検証を早急に実施すべきだ。感染者数が減少してきたとか、死者数が減ってきたという理由で、その検証作業を緩めてはならない。世界で3000人以上の死者が既に出ているのだ。

なぜ今、そのようなことを主張するのかといえば、生物・化学兵器がある意味で核兵器より恐ろしいからだ。核兵器は破壊力では断トツだが、広島・長崎で米軍が使用して以来、どの国も核兵器を使用していない。破壊力が凄いこともあるが、核兵器を使用する戦略的メリットが急減したからだろう。使用すれば、国際社会からの批判は必至であり、制裁が施行されるから、核兵器保有国は大量破壊兵器の使用を躊躇せざるを得ない。

核兵器の小型化、爆発規模を制限した核兵器など、使用できる核兵器の製造に乗り出している国もあるが、小型化、爆発規模の制限された核兵器が出来たとしても、紛争時で使用は難しいだろう。

一方、生物・化学兵器は破壊力こそ核兵器より劣るが、影響力は核兵器を凌ぐ。新型コロナウイルスを考えれば理解できる。感染力の強いウイルスが武器として使用された場合、感染地は短期間で拡大し、人間の命だけではなく、世界の経済活動に大きなダメージを与える。そしてその発生源を見つけ出すことは核兵器より数段難しいのだ。

化学兵器でも同様だろう。イラクのフセイン政権が1988年3月、クルド系住民に対し化学兵器を使用して多くの犠牲者が出たハラブジャ事件は有名だ。そしてシリアのアサド政権は反体制派活動勢力や少数民族に化学兵器を使用してきた。世界は化学兵器の被害を受けた人々の状況を目撃したはずだ。核兵器のように大規模な施設は必要なく、短期間で使用可能な生物・化学兵器が製造できるのだ。

ちなみに、生物兵器や化学兵器の製造、使用を禁止する多国間条約は既に施行されている。生物兵器禁止条約(BWC)は1975年3月、化学兵器禁止条約(CWC)は1997年3月にそれぞれ発効済みだ。

問題は、化学兵器や生物兵器を使用した国に対して徹底した制裁と検証がこれまで実施されていないという現実だ。アサド政権は過去9年間の内戦で少なくとも2回、化学兵器を使用している。例えば、シリア政府軍は2018年2月、東グータで化学兵器を使用、多数の子供たちや非武装の市民たちが窒息死したり、呼吸困難に陥ったことがある。

国際社会はアサド政権を徹底的に糾弾すべきだが、アサド政権の背後でロシア、イランが支援していることもあって、真相究明が曖昧な状況に留まってきた。化学兵器を使用すれば、その国、政権は国際社会から糾弾され、制裁を課せられることをはっきりと示さなければならない。それを避けていれば、第2、第3のアサド政権が出てくるのは時間の問題だ。

参考までに、英国で2018年3月4日、亡命中の元ロシア連邦軍参謀本部情報総局(GRU)スクリパリ大佐と娘が、英国ソールズベリーで意識を失って倒れているところを発見された通称スクリパリ事件では、毒性の強い神経剤、ロシア製の「ノビチョク」が犯行に使用されたことが判明している。

IAEAの核保障措置協定の検証作業は重要だが、生物・化学兵器禁止条約の検証問題はここにきて重要度を高めている。武漢発の新型コロナウイルスが生物兵器として製造され、何らかの原因で外部に流出された可能性を指摘する声が聞かれるのだ。実際、新型コロナウイルスが従来のコロナウイルスとは異なったゲノン配列で、人工的痕跡があることが知られている。国際社会は至急、国際調査委員会を設置し、現地で発生源の検証に乗り出すべだ。

中国共産党政権が国際調査委員会の入国を認めなければ、「中国武漢発新型コロナウイルスは中国共産党政権によって製造された」という汚名を永遠に払しょくできなくなるだけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年3月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。