今夜ツイッターは、この3年ぶりの孫正義氏のツイートで大騒ぎだ。これはワイドショーの「人々の不安を解消するためにPCR検査を増やせ」という要求に答えたものだろうが、逆効果である。
これは日本では認可されていない簡易検査キットを個人に送って検査するもので、厚労省も試験的に認めたが、このキットは研究用で、患者の数十%に擬陽性(感染していないのに陽性)が出るといわれている。この検体を民間の検査会社に送れば検査はできるが、その後の処置はできない。
孫氏は「陽性になっても自宅待機するという厚労省の方針に賛成」だというが、あなたは簡易検査で陽性になったら、そのまま自宅でじっとしているだろうか。少なくともかかりつけの医者には相談するだろう。
医者は「陽性でもただの風邪だからほっとけばいい」とはいえないので、感染症指定医療機関を紹介するだろう。100万人も検査したら数万人が(擬陽性も含めて)陽性になり、指定医療機関に殺到するだろう。
軽症患者でも、指定医療機関は拒否できない。新型コロナは感染症法に定める「指定感染症」なので、患者は無料で入院させることになっているからだ。しかし今のところコロナには治療薬がないので、軽症患者は帰宅するしかない。簡易検査には、心理的な「安心」以上の意味はないのだ。
人工呼吸や集中治療室の必要な重症患者は入院させなければならないが、数万人が病院に押しかけたら、2000人分しかベッドのない指定医療機関はパンクし、コロナ以外の多くの患者が死ぬ。それが韓国やイタリアで起こったことである。
100万人分の検査費用は100億円ぐらいで、孫氏にとっては大した金ではないだろうが、いま足りないのは金ではない。マスコミのあおるパニックで患者が殺到し、疲弊している病院のスタッフである。
初期に「ダイヤモンド・プリンセス」で多くの患者が出た日本がコロナをコントロールできたのは、厚労省が重症患者を中心に検査する方針を貫いてきたからだ。韓国やイタリアの後を追う孫氏の提案は、日本の医療を大混乱に陥れ、死者を増やすだけである。
追記:その後、孫氏はつぎのようにつぶやき、この提案を撤回した。