WHOが、3月11日、ついにパンデミック宣言を出し、感染の広がりや重大さ、対策が足りていないことに対する懸念を表明した。感染者数がピークアウトしつつある中国、かねてから感染の広がりが懸念されていた日本、イタリア、イラン、韓国以外でも患者が急速に増え始めている。
ところで昨日、孫正義氏が、「検査が足りていないから100万人にPCR検査を提供」とツイートし、物議を醸した。医療界からの反発は強く、アゴラでも池田信夫氏が医療崩壊の懸念を表明した。その後、孫氏はツイッターで、「やめようかな」と、前言撤回を示唆するような発言をしている(読売新聞の取材に対してソフトバンク広報も「撤回した」と回答している)。
パンデミックとなった今、日本がもっとも真剣に考え対策を集中すべきなのは医療崩壊を防ぐことである。
1. 「検査をしすぎて医療崩壊」と伝えられるイタリア
イタリアは日本と同様高齢化率が高いが、近年、財政緊縮策の一環から、医療費を削減し医療機関を減らしてきた。新型コロナウイルスに対応する上で、医師や看護師などのスタッフ不足は深刻だ。また、PCR検査を、当初から軽症者にも広げ、本来なら家で休むだけで治癒するレベルの人にも病院での対応を余儀なくされたことで、医療崩壊が加速したと報道されている。
今や、人工呼吸器が足りず、「60歳以上には人工呼吸器を装着しない」という方針にせざるを得ない状態だ。イタリアはG7の一員であり先進国だが、先進国でも政策によって医療崩壊を招きかねないことは、日本も肝に銘じるべきで、教訓とするべきだろう。
2. 限られた医療資源をどう使うか
人工呼吸器やECMO(体外式膜型人工肺)といった重症者に対する呼吸補助、重患補助装置を必要とする新型コロナウイルス肺炎患者は全国で徐々に増加傾向にある。人工呼吸器やECMOは総合病院であっても台数は限られており、必要とするのは新型肺炎の患者だけではなく、心臓手術や他の重症疾患の患者にも使われ、装着した患者は往々にして長期管理になる。
「人工呼吸器やECMOが足りない」問題は、決して対岸の火事ではない。加えて、スタッフも有限であり、中国のようにスタッフへの感染が広がれば、スタッフ不足に拍車がかかり医療崩壊は加速する。日本はまだ持ちこたえているが、あやういバランスのどこかが崩れれば、医療崩壊は起こりうる。そのためには、政府や厚労省は国民にわかりやすい説明をする必要があり、国民もまた、冷静になるべきだ。
3. 「医療依存の強い日本人」はどう変わるべきか
孫氏が提案した「PCR100万人に提供」で懸念されたのは、自宅検査で陽性となった軽症者や無症状者が病院に押しかけ、重症者へリソースが割けなくなったり、却って感染が広がったりすることだ。
また、政府は、今後患者が増え、重症者の診療の支障をきたすようになった場合、軽症者や無症状者を自宅待機とする方針としており、11日、軽症者が自宅待機となった場合、オンライン診療を認める方針を出した。WHOも、軽症は入院の必要は無いとしている。ヨーロッパやアメリカでも、全員が入院するわけではなく、軽症者は在宅となる方針だ。
ここで問題になるのが、日本人は医療依存が強く、「心配だから、できるだけ病院で診て貰いたい」と希望する人が膨大に出現してしまうのではということだ。PCR検査が保険適用になる前、「保健所でPCR検査を断られ、熱があっても家にいるほかなく、医療崩壊だ」と、ワイドショーなどのマスコミは煽ったが、今度は、「陽性が出ても家にいるなんて、見捨てられている、医療崩壊だ」という論調が世間を支配してもおかしくはない。
しかし、国民は今一度冷静になることが必要だ。イタリアの轍を踏まないために。