まさに「猖獗を極める」と言うに相応しい新型コロナウイルスの蔓延、28日午後のSCMP紙によれば、感染565,376人、死者26,260人となり、感染100,717人の米国が86,498人の中国をとうとう抜いた。死者は1,544人で9,134人の中国を下回るも、この件ばかりは「Great!」と胸を張れない。
各国の支援に回るなど、まるで騒ぎがなかったかのような中国の最近の振る舞いだが、かつて毛沢東が進めた「大躍進」で「1958年〜62年の間に3,600万人が餓死した」(楊継縄著『毛沢東大躍進秘録』文藝春秋)事実を長年にわたり隠蔽した国柄。中国の公表数字など国際社会の誰もが信じていない。
加えて、外交部報道官がウイルスの米国起源を示唆するツイートまでする増長ぶり。これは駐米中国大使がすぐに政府の意向でないと否定した。が、米国内の中国非難のボルテージはいやが上にも高まり、3月24日には米国の上下両院でこの問題に関する決議案が提出された(25日大紀元)。
すなわち下院では、ジム・バンクス議員による中国政府の「China Virus」への対応の誤りがパンデミックに繋がったとする中国非難の決議案、上院はジョシュ・ホーリー議員からの中国の誤った対応が感染を悪化させたか否かを国際公共機関が調査するよう求める決議案で、共に超党派の署名がある。
23日の大紀元によれば、民間でも経営危機に陥った米企業や弁護士らが3月17日、中国政府、武漢ウイルス研や同所長らに損害賠償20兆ドルを求める訴訟をテキサス連邦裁判所に起こし、他方、武漢市の弁護士も20日、トランプや国務長官やCDC所長らに対する20万元の損害賠償民事訴訟を武漢裁判所に届け出たそうだ。
被告を国とする国際民事訴訟では、国やそ行政組織は外国の裁判権から免除される「主権免除」なる慣習法がある。よって民間の訴訟合戦は格好だけだろうが、米国議会の決議案は、台湾や香港に関するものと同様お得意の米国内法なのでいずれ成立するだろう。
口喧嘩も白熱し、25日のG7外相TV会議でポンペオは「中国共産党は現在国内で起きている事柄について正しい情報を提供すべき」とし、「武漢ウイルスによって破壊された経済を立て直す」ため中国を含め世界各国の協力が重要と、「武漢ウイルス」という語を用いて訴えた(26日ロイター)。
ハドソン研究所(保守系シンクタンク)副所長らも23日、「中国共産党が中共ウイルス発生後に情報を隠蔽し、他国との情報共有を拒否した一連の行動は、国内での悲劇のみならず世界に災いをもたらした」とし、「中国共産党は自らの悪行が招いた結果に責任を取らなければならない」とする論文を発表した(24日大紀元)。
中国も負けていない。27日の環球時報は「発言者の意図に関わらず『China Virus』は人種差別」との記事で、「話し手の理解と単語選択の意図に関わらず聞き手の感情が重要」であり、「異なる背景の人々が相互作用する今日の多様な世界では互いの傷跡やタブーの理解や尊重が大事」と説教を垂れる。
また26日の「米国の政治家がパラノイアを終わらせれば協力可能」との記事では、ニューヨーク州のクオモ知事が「4万人の医療従事者の登録」を発表したことを賞賛する一方、「国を操っている政治家たちは、意図的に間違った敵を標的にしている」とトランプ政権を批判する。
記事は、G7外相会談後ポンペオは「中国がCOVID-19に関して『意図的な偽情報戦』をしていると述べて中国との口喧嘩を続けた」とし、「米国の政治家らは米国がウイルスに対抗する作戦準備と混乱について沈黙している。トランプ政権が無辜の米国人にもたらした破局は言うまでもない」と痛烈だ。
更に、トランプ政権がウイルスとの闘いを最優先するなら「中国との協力が必要だ」とし、「政治家は嘘をついているが、幸い多くの米国人は明確な頭を保ち、不潔な政治的トリックを見透かす」として、23日にElon Musk(テスラCEO)が「中国から1,200台の人工呼吸器を購入した」ことを書く。
人工呼吸器については、トランプ大統領が18日の記者会見で「最悪の事態に備え、現在よりもさらに多くの人工呼吸器などが必要になるかも知れない」と、「国防生産法」を適用して人工呼吸器や医療用マスクや手袋などを生産する民間企業に増産を要請することを示唆していた(NHKニュース)。
環球時報はこの会見を知っていて、26日にテスラCEOの人工呼吸器購入に言及したに違いない。ドイツの死者が他の欧州諸国と比べて少ないのは、人工呼吸器を多く備えていたからとされるほど新型コロナ肺炎の重篤患者を救う極めて重要な医療機器だ。中国の底意地の悪さには呆れる他ない。
報道各紙は28日、「トランプ氏、GMに人工呼吸器生産命令 国防生産法適用」(日経)などと報じた。同記事によれば「GMは生産や出荷で連邦政府の発注を優先する義務が生じる。トランプ氏は命令文書で『GMは時間を浪費している』と批判し、契約など手続きを迅速に進めるよう求めた」という。
トランプは命令に先立ち「GMは4万台を『とても迅速に』供給すると言っていたのに、4月下旬にたった6千台だという。しかも最高の代金を求めている」とGMのCEO批判をツイートした。「GMは4月から月間1万台のペースで生産する」そうだ。さすがトランプ、やることが小気味良い。
そこで「国防生産法」をネットで調べてみた。報道には1950年の朝鮮戦争を機に制定されたとも、第二次大戦後に廃止したのを復活させたともある。トルーマンには、戦後すぐにOSSも廃止し、冷戦が本格化すると慌ててCIAを作った前科がある。どうもこの大統領にはへまが多い。
同法は膨大なうえ何度も改訂(直近は2018年8月)されて、今日も十分生きているようだ。同法のFindings(結論)に書いてある要点を以下に挙げる。(拙訳による)
- 米国の安全は、国内の産業基盤が国防のための材料とサービスを供給し、軍事紛争、自然・人為的災害、またはテロ行為を準備して対応する能力に依存している。
- 国内の産業基盤の活力を確保するには以下の行動が必要(略)。
- 国家安全保障を提供するため合衆国政府は以下の国家防衛準備努力が必要(略)。
- 国防準備プログラムを形成し、国内の産業基盤を維持および強化するための適切な措置を講じる一連の権限を大統領に提供する。
- 国防の準備を確実にするため、国防ニーズのための国内エネルギー供給の活用を保証することが必要かつ適切。
- 国内の産業基盤の適切な維持を可能な限り保証するため、国内のエネルギー供給は、再生可能エネルギー源(太陽光、地熱、風力、バイオマスを含む)、より効率的なエネルギー貯蔵への依存によって強化されるべきである。
- 軍事生産およびその他の国防目的で米国政府が依存している産業能力の多くは、以下に深く直接的に影響を受ける(略)。
- 米国の産業、特に小規模な下請け業者やサプライヤーが重要な部品や部品、その他の材料を提供できないことは、米国軍を戦闘中に長期間維持する能力を損なう。
今回の新型コロナ騒ぎでは、さすがに平和ボケの我が国でも公権と私権のことが世間の口の端に上りつつある。そしてこの法律の存在と適用に関する今回の報道は、こと国防に関して米国では、公権が私権に当たり前に優先することを改めて我々に気付かせる。