いまこそ旧制高校的なリベラル・アーツの復権を

八幡 和郎

政治や社会の混迷が深まると、旧制高校的なリベラル・アーツを復権させるべきだという声が高まる。政治家にしても、旧制高校世代の人の考え方は基礎がしっかりしていたと感じることも多い。

写真AC

もちろん、旧制高校というシステムは現代には無理だと思う。コストが高く大量の人材養成に向かないからだ。

私の世代は親も、高校や大学の先生方の多くも、就職したときの幹部も旧制高校出身だったし、また、ヨーロッパでは五月革命のころまでは中等教育が戦後改革の洗礼を受けていなかったので、フランス人などの同級生は古いリベラル・アーツ至上主義の教育で育ってきた人たちだった。

そう言う意味で、戦前の教育システムの残滓に触れながら育ってきた世代だといえるかもしれない。

ところが、このところ、時代の混迷の中で、ふたたびリベラル・アーツの価値が見直されているように見える。

出版界でも、『1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365』(文響社)などと言う本がアメリカでベストセラーになり、日本語訳もよく売れているらしい。

そこで出版社から、それにヒントを得たような本をとくに歴史を中心にしてつくってみないかという勧めがあった。著書の多さと分野の広さは誰にも負けないから、やれるだとうというわけだ。

それをお受けして、世界各国史と分野別の歴史を縦軸と横軸にして、かつ、旧制高校の卒業生がそうであったように、西洋・東洋・日本の和漢洋の視点をバランス良く配した本にしてみようと思った。

また、西洋といってもアメリカだけでなく、フランス、イギリス、ドイツ、ギリシャ、ローマの視点をバランス良く導入し、さらに、ロシア、イスラム、インドなどにも目配りをしてみた。

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結局、『365日でわかる世界史 世界200カ国の歴史を「読む事典」』(清談社・4月12日発売)という本にしたのだが、目次としては、3656ページのうち総論が25ページ、各国史が213ページ、残りの112ページが、経済・貨幣、地球環境、科学技術、美術、建築、クラシック音楽、オペラ、バレエ、ポピュラー音楽、文芸・哲学、スポーツ、グルメ、ファッションなどの分野別です。そして、最後の10ページが世界と日本というテーマだ。

特に、分野別はさまざまな分野のベスト100をテーマに書いて、ちょっとほかにない本にしている。「世界史に残る美術100選で語る世界美術史」などというものは、少なくとも、今回、いろいろ調べたが、世界中誰もやったことのない大胆な試みである。

だいたいは、私が自分で書いたが、地球環境は有馬純(東京大学・経済産業省)、通貨は有地浩(財務省OB)、科学技術は中野幸紀(元関学大)、そのほか、経済と経済学史、ポピュラー音楽、建築、プロスポーツはそれぞれの分野のプロで、私とさほど違わない意見の専門家にお願いした。

経済学史のところでは、MMT理論の元祖はあの三権分立を主張した「法の精神」のモンテスキューだという意外な発見もあった。