ラテンアメリカで米国に3悪国と呼ばれ、と同時にロシアの影響力が浸透しているのがキューバ、ベネズエラそしてニカラグアである。ニカラグアに関しては日本で話題になることは先ずない。
最近、唯一話題になったのはニカラグア運河の建設についてである。一時はパナマ運河の強敵になるのではないかと懸念され、またこの建設の背後に中国がいると噂された。しかし、現在ではこの建設はもう現実から遥かに遠のいてしまっている。
ところが、最近僅かではあるが日本でも報道されるようになっているのは、ニカラグアの大統領ダニエル・オルテガ(74)が3月12日に姿を見せたのを最後に今日まで彼はどこにも現れていないのである。一部では死亡説も噂されている。(参照:elmanana.com.mx)
彼と彼の夫人ロサリオ・ムリーリョによる独裁政治で多くのジャーナリストが弾圧されて国外に脱出している現状では、仮にオルテガが死亡しているとなると、今後の政変の動きに非常に注目が集まることになる。
ニカラグアでは2018年4月から50人余りのジャーナリストがコスタリカなど隣国に身を隠し、ニカラグア政府の弾圧などの報道を自国に向けて発信しているといったことなどは日本では知る由もない。独裁者ダニエル・オルテガと彼の夫人ロサリオ・ムリーリョが不利になるような報道は一切禁じているからである。
2018年4月に政府の財政難から改革だと称して社会保障費の値上げに踏み切り、更に年金受給者に対しても5%の税金を要求したのである。それに対して全国レベルで市民が抗議運動を展開したのである。その影響で12万人の雇用が失われた。
またダニエル・オルテガとロサリオ・ムリーリョが指揮して軍隊と警察による弾圧で犠牲者も出ている。米州人権委員会の報告によると、2018年4月から328人が死亡したされている。現地の調査組織はその数を684人まで挙げている。一方の政府は200人だとしている。(参照:lavanguardia.com)
この市民による抗議にメディアも同調して政府に不利になる報道を展開して行った。更に、メディアはこの機会を利用して政府の汚職などによる腐敗も積極的に指摘し始めた。それ以来、オルテガとムリーリョはジャーナリストを逮捕したり、彼らのオフィスを封鎖して印刷機械や新聞紙などを押収し始めたのである。
この夫婦による弾圧から逃れる為に前述したように50人余りのジャーナリストが特に隣国のコスタリカに亡命した。国に残って政府を批判する報道を繰り返せばいずれ逮捕されるのは明白である。同様に、ニカラグアが被っている経済危機によって職場を失った市民の5万人以上が同じく国を去った。
彼らは亡命した先でジャーナリスト同士がシェアするマンションなどの一室をスタジオにしてニカラグア向けに報道する活動などを始めたのである。(参照:voanoticias.com)
報道の自由を失ってから昨年10月から12月まで政府はメディアに対して120回の犯罪を犯したという。脅迫、障害、執拗な攻撃、性的暴行、人的攻撃、放送機器の押収といった犯罪を繰り返したのである。(参照:infobae.com)
ニカラグアで1926年に創刊された最も古い新聞『La Prensa』も被害を受けている。印刷用紙やその他新聞にする必要なものは75週間押収された後、2月に返却された。しかし、新聞にする紙やインクの輸入を政府は禁止している。同紙による報道を政府は規制するためである。(参照:despacho505.com)
テレビチャンネル『100%Noticias』も2018年12月に放送が禁止された。創設者ミゲル・モラと報道ディレクターのルシア・ピネダは逮捕されて172日間収監させられていた。その後、ピネダはコスタリカに亡命した。
その影響を受けたレティア・ガイタンは2歳の子供を家族に預けたあと、道先案内人コヨテに同行してもらって越境してコスタリカに亡命。
テレビ番組担当だった著名なカルロス・フェルナドやジャーナリストのヘクトル・ロサレスらもコスタリカに亡命した。フェルナンドの場合はテレビ報道に必要なものはすべて押収されたそうだ。彼は今コスタリカの地方テレビ『Teletica』のスタジオからニカラグアに向けて報道活動をしているそうだ。
ガイタンの場合は、あるショップのレジを担当して生活の糧を稼いでいたが、自分の務めはジャーナリズムだと再認識して経済面での保障はないが、彼女が正しいと感じているジャーナリズムの道をまた始めているそうだ。そして、他に4人のジャーナリストと集まって3月から『Nicaragua Actual』というデジタル紙をスタートさせた。YouTubeとFacebookを利用してニカラグアで起きていることを政府の干渉なく報道している。
(参照:voanoticias.com)
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、ニカラグアからコスタリカに毎日2000人の亡命申請書が届いているそうだ。コスタリカはニカラグアを国境を接する上に中米で唯一政治的に安定し発展している国だ。
1936年から1979年までソモサ独裁政治が続き、それを打倒すべくサンディニスタ民族解放戦線が活動した。ソモサ体制は崩壊してサンディニスタのリーダー、ダニエル・オルテガが大統領になった。
社会主義政権を好まない米国が干渉したあと1987年に和平交渉が成立して、3人の大統領ビオレタ・チャモロ、アルノルド・アレマン、エンリケ・ポラーニョスが政権を担った。ところが、政権の汚職など社会問題となり、2006年の大統領選挙ではカトリック教を味方にして貧困の撲滅を前面に掲げたダニエル・オルテガが当選。翌年1月にオルテガは再び大統領に就任。
それから13年が経過した今、オルテガがソモサと同じようにすべての政府機関を私物化した独裁者となった。オルテガにさらに輪をかけたように彼の夫人ムリーリョがオルテガ以上に弾圧政治を敢行しているのである。