「当初から10万円…」岸田政調会長、開設まもないツイッターが炎上

アゴラ編集部

安倍政権が17日、新型コロナウイルス感染拡大で困窮する国民への支援策として、当初、補正予算案に盛り込んで閣議決定までしていた「所得条件付きでの30万円給付」を取りやめ、公明党が要求した「一律10万円給付」に方針転換したことは、歴代政権の政策プロセスを振り返ってみても極めて異例だ。

安倍首相のまさかの“ちゃぶ台返し”により、苦境に立たされたのが、岸田政調会長だ。産経新聞の電子版はこの日夜に政権与党のここまでの裏舞台を解説した記事を配信。「30万円給付」案を巡っては、自民党内でも昨年の消費増税に反対の急先鋒だった反緊縮派の若手議員などから異論が噴出していたが、岸田氏は「党の政策責任者として難産の末、経済対策の党内議論を取りまとめた」(産経記事より)はずだった。(アゴラ編集長  新田哲史)

首相官邸ホームページ

折しも、岸田氏は来年の総裁選を見越してか今月に入り、公式ツイッターを開設。13日に初のツイートをしたばかりだったが、早速「一律10万円給付」についても言及。「自民党としても当初から訴えてきた10万円一律給付を前倒しで実施することを総理が決断しました。」とコメントしたところ、

賛成いたします、が先生は最初30万支給派だったのでは?コロコロ変わりますね(笑)

自民党の誰かが当初から言ってたの間違いでは・・・・。

岸田さんは反対されてたんじゃないですか?国民はそう思ってますよ。

などと、総ツッコミ状態。野党支持者から批判されただけでなく、自民党や安倍首相の支持者とみられるネット民からも多く書き込まれていたのが印象的だった。

炎上気味になっている背景には、岸田氏が率いる派閥「宏池会」(通称:岸田派)は、伝統的に財政規律派に位置付けられており、積極財政派の安倍首相を支持する保守系ネット民とは相性がよくないことも挙げられる。

岸田氏誤算の背景〜「事前審査制」の想定外

なお、岸田氏は今回取りまとめが仕事で、「一律給付」に反対していたという報道は目立たなかったが、自民党の本来の政策決定プロセスの流れからすると、想定外の誤算だったのは間違いない。

同プロセスは、昨年秋の森ゆうこ騒動のときにも注目された「事前審査制」だ。これは政務調査会で原案を承認し、次に常設では最高の意思決定機関、総務会で全会一致(慣例)での承認をもって最終承認される。

自民党総務会(NHKニュースより)

自民党の事前審査で承認された法案・予算案は政府が閣議決定し、国会に提出される。しかし、日本の国会の仕組みでは、野党側の修正提案はほとんど受け入れられないのが実情であり、自民党総務会で承認された時点で法案・予算案は事実上“成立”している。

通例であれば、党で6日に補正予算案を事前承認し、政府側に送った時点で、岸田氏としては山場を乗り越えたように思えたはずだ。しかし前代未聞の国難だけに、まさかの展開が待ち受けていた。14日になって二階幹事長が「所得条件付きでの10万円給付」を検討する意向を表明した。

「二階案」は、閣議決定した「30万円給付」案とは別に、第2次補正予算案を念頭に置いていたが、流れがここで変わり始めた。公明党が一気に動き出し、山口代表が安倍首相に掛け合う形で補正予算案の「所得条件付き30万円給付」を取りやめ、「一律10万円給付」へと加速していった。

ポスト安倍への道、コロナで転ぶ?

自民党の65年の歴史の中で事前審査制が大きく揺らいだ事件といえば、2005年の小泉政権による郵政民営化法案提出だ。このときは党内で法案に反対派が多く政府が直接国会に提出するという初の事態に突入したが、今回のように党の承認と閣議決定の2つをひっくり返したのは、それを超える珍事ともいえる。

実際、産経新聞は「自民はガバナンスの危機」と見出しに。岸田氏らの取りまとめの苦労をよそに、党内では、最初から「一律給付」を訴えていた若手議員らが、自民党内の声が無視されたのに公明党の要請に動いた結果に憤懣やるかたなく、ツイッターで公然と不満を表明しあう事態に。

事前審査制が骨抜きになり、面目がまさに「丸潰れ」となった岸田氏だが、自民党の政権奪還以来、外相、政調会長などの要職で派閥が違う安倍首相を支えてきた。

しかし、昨年7月の参院選では、地元広島で、岸田派の重鎮、溝手顕正氏の再選に失敗。官邸主導で擁立した河井案里氏に敗れる苦杯をなめた。河井氏と夫の克行前法相が公選法違反事件で失脚間近という中で、岸田氏としては「ポスト安倍」に向け倍返しでの反転攻勢になるだった。

3月末に安倍首相に経済対策を申し入れる岸田氏(Facebookより)

まさにコロナ危機では政調会長としての存在感をみせたいはずだったが、読売新聞(4/14 朝刊)によると、安倍首相自身は実は当初から「一律支給」を模索していた。結果的に岸田氏は梯子を外され、参院選に続く屈辱となった。

今回の「事件」により、岸田氏の求心力に疑問符がつくのは避けられそうにない。巻き返しをはかるには、冷たい仕打ちを続ける安倍首相にいつまで歩調を合わせるのか、派閥内でも主戦論が強まりかねず、さらなる試練を迎えたと言えそうだ。