コロナと自動車販売

ガソリンがこんなに安いのに自動車に乗ってどこかに行くことができない歯がゆさを感じる人はいますか?というより、日々の生活防衛が最重要で車に乗ってどこかに行くという発想そのものがなくなっている方も多いのだろうと思います。勿論、用事で車に乗る方は別ですがトヨタが1984年から87年まで使ったキャッチ、Fun to Driveという雰囲気は封印されています。

(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)

3月のアメリカの自動車販売は悲惨なものでした。前月比32%減となり乗用車、ライトトラック共に同じような減少幅でした。販売台数も99.2万台と100万台の壁を下回っています。年間販売台数に調整換算すると1140万台でリーマンショックがあった2009年の1040万台に迫る水準となっています。4月は更に悪化している可能性が高いので計算上年調整販売台数が1000万台を下回る公算はあります。ちなみにカナダの3月は前月比47%減、スペインに至っては69%減となっています。

中国のコロナの影響は約1か月先に来たわけですが、同国の1月、2月、3月の販売台数は192万台、31万台、143万台です。中国は3月が通常に戻り始めるプロセスだったことを考えると欧米の販売減は4月が底で5月から少しずつ回復する兆しが見えてくるものと思われます。

そもそもクルマの購買意欲に関しては過渡期にあったところにコロナが背中を押したとみています。(2007-08年のアメリカの住宅バブルの際にたどった軌跡と同じです。)各社が自動運転や電気自動車などの開発にいそしんでいますが、それが一般大衆まで下りてくるのに時間がかかっていることがマイナス要因の一つではないでしょうか?多くの自動車購入者は今、内燃機関のクルマを買い5-6年乗るのか、もう少し我慢して見たこともないような装備のついたクルマが出るのを待つべきかを悩ませる「蛇の生殺し」の状態かもしれません。

これは自動車各社のマーケティングに問題があったといわざるを得ません。自動運転のクルマがやってくるというイメージは多くの人にあと数年待てばよいという印象を与えました。が、自動運転は思った以上にハードルが高かったし、技術的にクリアしても実際に路上を走る許可取得の道が遠い状況にあります。

許認可を出す当局としては何かあった際、損害賠償責任が自分たちにも降りかかってくるため、火の粉が飛んでこないようあらゆる対策と確度を持たないとOKが出せなくなっています。好例がボーイングのMAXであります。あれもプログラムミスが原因だったわけで最終許可をもらう前に気づいていればすぐに修正できたはずです。が、いったん許可され、2度墜落させたため、当局が保守の極みになっているのです。勿論、安全は重要ですが、墜落したことで必要以上に対策を求められ、場合によってはMAXではなく別のブランドにした方がいいんじゃないか、というぐらいの勢いなのであります。

自動運転の自動車の事故率は多分、今のクルマの事故率より本質的には下がるはずです。たとえばアクセルとブレーキの踏み間違いのような事故は防げるはずですが、自動運転車と一般車が混在することで事故は当然起きるし、ヒトの突飛な行動に対して自動車の制動能力には物理的限界もあります。つまりゼロにはならないのですが、その時の過失についてその車を作った自動車会社に一定のリスクがある点がクリアできないのでしょう。

一般論が当てはまるならアメリカでの自動車販売はV字回復します。例えばハリケーンで甚大な被害を受けたら一般大衆はまず、家とクルマを得ようとするからです。自動車販売台数は統計的にハリケーン被害の翌月から急速に増えることは過去のデータが示してます。しかし、今回のコロナではクルマが壊れたわけではないし、雇用が一気に回復するわけでもなさそうです。とすればもともと自動車への購入意欲がややそがれつつあった中で自動車購入の優先度が劣後するリスクはあるかと思います。

もっと言ってしまえばコロナを通じて人は我慢することを覚えたかもしれません。これは消費活動に大きな変化をもたらします。この変化には留意した方がよいかもしれません。

ところで蛇足ですが、当地である男性向けファッション雑誌に「男が欲しくなるクルマ、ベスト20」なるものが出ていたのですが、日本車が一台も入っていなかったのが衝撃でありました。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年4月23日の記事より転載させていただきました。