悲観的予想は外れても非難されない不公平

新型コロナウイルスの予想に関しては、ポジティブなものとネガティブなものが存在します。

実は「悲観的予想」は、発言者にとっては、とても都合が良いものです。もし、予想通りに当たれば「私の予想が的中した」とアピールすることができます。もし、予想が外れてネガティブな展開にならなければ、状況に満足して忘れてしまう人がほとんどで、指摘されても「予想が外れて本当に良かった」と受け流せば良いからです。

逆に新型コロナウイルスの感染拡大は心配無いというような楽観的予想には、大きなリスクがあります。万が一予想が外れて感染者拡大となれば、分析が甘いとバッシングされますし、想定通りに問題が発生しなければ、多くの人は予想のことなど忘れてしまうからです。、

「8割おじさん」として知られる厚生労働省クラスター対策班の西浦博北海道大学教授は、4月15日の記者会見で「人と人の接触を8割減らさないと、日本で約42万人が新型コロナウイルスで死亡する」と予想したそうです。感染拡大を防止する立場からネガティブな予想をするのは、合理的な判断です。

(出所:日本経済新聞)

そもそも「8割減らす」というのが、いつを基準に何が8割減れば良いのか良く分かりませんが、その後、国内の死者数は4月28日現在でも累計で400人を超えた程度です。感染者数のグラフ(出所:日本経済新聞)でも減少傾向になっていることは明らかです。これは、8割減が達成されたから、死亡者数が想定の100分の1に抑え込まれたということなのでしょうか?

42万人死亡という予想は、基本再生産数(1人が平均何人に感染させるかを示す数字)を欧米と同じ2.5で仮定して計算しているそうです。しかし、このサイトによれば、例えば東京の実効再生産数は0.38で、多くの都道府県では1より小さくなっています(このサイトの数字が正しいかどうかは検証が必要です)。

多くの人が指摘するように、自粛をすべきかどうかは、感染者数がゼロになるかどうかではなく、自粛解除による感染死亡者の増加と自粛継続による経済活動の低迷からの自殺者の増加のトレードオフから判断すべきです。「命と金」の問題ではなく「命と命」の問題です。

政府はゴールデンウイークが期限の緊急事態宣言を1ヵ月程度延長する方向と報じられています。収束しない場合は更に延長も検討しているようです。

であれば延長する根拠と、収束とはどのような状態を指すのか。国民に納得してもらう必要があると思います。

確かに、緊急事態宣言を解除すれば、反動で多くの人たちが今までの活動に戻り、感染者数が再び増えるリスクも理解できます。難しい判断であることは良くわかりますが、やみくもに感染者数減少だけを数値目標にネガティブな予想から決断するのは、やめるべきではないでしょうか。


編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2020年4月30日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。