テレワークで「65%が生産性が高まらない」と思う理由

内藤 忍

ドリーム・アーツ社が、大企業社員を対象に4月に行ったアンケート調査によれば、テレワークを導入して生産性が高まったと感じている人はわずか35%で、65%は生産性が高まっていると感じないという意外な結果になりました(図表も同社サイトから)。

テレワーク導入のメリットとしては、通勤時間が短縮される、周囲の雑音がなくなり仕事に集中できるといった点が挙げられています。

一方でデメリットとしては、テレワークの環境が整っていない、コミニケーションが取りづらい、ウェブになり会議が多くなったといった指摘がありました。

ここで挙げられたデメリットが解決されれば、生産性が高まると感じる人の比率が高まり、テレワークの普及が更に期待できることを意味します。

テレワークのための環境改善には、自宅のワーキングスペースの確保、パソコンや通信環境などのインフラ整備が必要です。

多くの家庭では、仕事のために書斎のようなスペースを確保するのは、特に都心部では現実的に困難です。テレワーク導入に対応するために、リビングや子供部屋を借りて仕事やミーティングをしているのが現実ではないでしょうか。これでは、生産性が上がりません。

また、パソコンのセキュリティーの問題や、通信速度が確保できるインフラがなければ、安心してテレワーク業務は進められません。

テレワーク普及のためには、会社がこのようなインフラ整備のための経済的サポートをする必要があります。

もう1つの問題であるコミニケーションの円滑化や不必要な会議の数を減らすためには、業務内容の明確化やワークフローの作成が必須です。

曖昧な業務範囲をお互いにサポートしながら仕事をする伝統的な日本のワークスタイルでは、調整に時間がかかり、テレワークで業務は非効率になるからです。

また、ウェブを使ってミーティングが頻繁に行われたり、業務の報告のレポート作成に忙殺されるといったテレワークの弊害もあるようです。これらも、業務範囲の指示が不明確で、人事評価の基準が明示されていないことが原因と考えられます。

テレワークのデメリットの改善方法は意外に明確です。しかし、日本の伝統的企業がこれを実践できるかと聞かれると、かなり難しいのではないかと思います。

今回の調査は従業員1000名以上の大手企業が対象です。中小企業になると更に人的・経済的余裕がありませんから、インフラ整備をしたり、業務の見直しをすることは難しくなります。

これからの究極のオフィスは、社員や取引先との情報交換のためのスペースという位置付けになります。個人でできる仕事は、オフィスに集まってやる必要なく、テレワークでフレキシブルに進めれば良いのです。

そんな理想的な仕事の環境が実現するのには、まだまだ時間がかかりそうです。


編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2020年5月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。