人工知能(AI)が「神」を発見する時

フランスの哲学者ブレーズ・パスカルは、「人間は、自然の中で最も弱い葦の一本に過ぎないが、それは考える葦である」と述べ、人間の偉大さがどこにあるのかを表現した。当方には、その人間の偉大さが今、大きく揺り動かされているのを感じるのだ。考えているのは人間だけはでなく、植物も動物も考えていることが分かったからではない。

MacKenzie /flickr

少なくとも21世紀に入って2件、人間の偉大さが決定的に揺さぶられる出来事が起きている。直径100nm(ナノメートル)から200nmの新型ウイルスが世界の政治、経済、文化を根底から破壊してきた。そして人間が開発してきた人工知能(AI)が世界最強の囲碁棋士との戦いで圧勝したことだ。

▲新型コロナウイルス(covid-19)=WHO公式情報特設ページの公式サイトから

前者は今、世界が目撃し体験している。中国は世界に原子爆弾を落としたわけではない。ひょっとしたら、中国共産党政権も事態を過小評価していたのかもしれない。同国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスは27日現在、世界各地で565万人以上の人間に感染し、35万人以上の死者を出している。新型コロナウイルスの襲撃に対し、感染防止のために都市封鎖、外出規制、経済活動の停止を余儀なくされてきた。感染がピークアウトしたこともあって、欧州では国境制限を解除し、段階的な封鎖解除に乗り出そうとしているところだ。

世界に莫大な被害と犠牲をもたらしたのは直径100nmのウイルスだ。そのウイルスが動物からひとに感染するようになった背後には、人間の関与があったことは否定できないが、生物でもない非生物のウイルスが世界を短期間に激変させたのだ。

昨年、現在のような世界を予想した人がいただろうか。「考える葦」の人間の偉大さを秘かに誇ってきた人々は人間の弱さを痛いほど感じているだろう。パスカルの「自然の中で最も弱い葦の一本に過ぎない」という箇所には痛感せざるを得なくなった一方、誇るべき「考える葦」は治療薬、ワクチン製造で自国ファーストの争いを展開している(「人は考え、過ちを犯す葦だ」2015年12月9日参考)。

▲人工知能の父、チューリングの16歳の時の写真(ウィキぺディアから)

もう一つの出来事はAIアルファ棋士が世界最強の棋士をあっさりと破ったことだ。この出来事は囲碁の世界に留まらず、世界に衝撃を投じた。AIの棋士「アルファ碁」と世界最高峰の韓国棋士、李セドル氏との5番勝負が行われ、4勝1敗でアルファ碁が圧勝した。李氏が2016年3月13日、第4戦目で「アルファ碁」に白番中押しで雪辱を果たした時、世界のメディアは速報を流した。それほどグーグル傘下のディープマインド社が開発した「アルファ碁」は強かったのだ。李セドル氏は第2戦で敗北した直後、「ミスがなかったのに負けてしまった」と吐露した時、「アルファ碁」に対して恐ろしさすら感じた囲碁ファンも多数いた(「人類は人工知能より優れているか」2016年3月15日参考)。

日進月歩で科学は進展する。同時に、AIの機能も急速に改良されるだろう。10年後、30年後、50年後のAIを考えてみてほしい。一方、人間はどうだろうか。日進月歩で発展するだろうか。知識量は確実に増えるかもしれないが、人間を人間としている内容に残念ながら急速な発展は期待できない。すなわち、時間はAIに有利だというわけだ。

非生物的存在の「新型コロナウィルス」と人間の英知を集めて開発した「人工知能」に人類は敗北を喫してきた。もはや人類は「考える葦」と豪語してはいられなくなってきたのだ。現代人が薄々感じ出してきた自信喪失、憂鬱感はこれまで万物の霊長として「考える葦」を誇ってきた人間の落日を物語っているのではないか。
医者で神学者のベストセラー作家、ヨハネス・フーバー氏(73)は昨年、「運命の解剖学」(Die Anatomie des Schicksals)という新書を出したが、その中で「現代は進化発展生物学(Evodevo)の時代だ。進化は神の業だ」と述べている。そして科学者が答えることが出来ない2つの問いがあるという。一つは「宇宙にある自然法はどこからくるのか」、そして2つ目は「宇宙形成の最初の条件はどこからくるのか」だ。

AIが近い将来、この2つの難解な宇宙の問題に対して答えを見つけ出すとすればどうか。換言すれば、宇宙の観測性の背後に神の創造があったという結論を下した場合、人類はAIが発見した神にどのように対峙すべきか戸惑うのではないか。AIが人類に先駆けて神を発見した場合、「考える葦」というタイトルを人類は決定的に失うことになるからだ。

上記のシナリオは決して夢物語ではない。なぜならば、AIは、人類の有神論と無神論といった哲学論争には全く関与せず、ビッグデータ、世界の森羅万象の事実を総合的に解明した結果として「神」を見つけ出すからだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年5月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。