業務委託先の不祥事に対する東京電力HDの対応は?-東証・不祥事予防のプリンシプル「原則6」の存在感

6月11日の朝日新聞朝刊一面トップに、朝日の独占スクープとして企業不祥事に関する記事が掲載されています。東京電力が家庭向けに販売する電気・ガスの電話勧誘業務を請け負った「りらいあコミュニケーションズ社」(東証1部)が、顧客との会話を録音した音声データを改ざん・捏造(ねつぞう)していた、とのことで、同社も事実を認めているそうです(朝日新聞のニュースはこちらです)。

(りらいあコミュニケーションズ株式会社ホームページから:編集部)

今年1月に内部通報で発覚、社内調査を行い、東京電力(同社に委託した東電グループ会社)にはすでに報告し、同社は東電側から一部の委託業務を解消されているようです。東京ガス等との競争激化のなかで、同社が適切に業務を行っていることを東電グループ会社に報告するために改ざん・捏造を行ったそうですが、とても東証1部の企業が行う不正とは思えない内容です。新聞記事を読むと、東電側への虚偽報告ではありますが、最終的には勧誘を受けた消費者が不利益を被る可能性があることがわかります。

本件は今年1月の内部通報を端緒として社内調査が開始されたそうですが、結果として朝日新聞に(社内からと思われますが)内部告発(外部への情報提供)がなされ、世間が知るところとなりました。そもそも「りらいあ社」として、当該不祥事を公表しなければならないかどうかは別として、こういった不祥事例によって株価が急落する事態をみますと、自ら公表することの経営判断を改めて考えてみる必要がありそうです。

ところで、(ここからが本題ですが)上場会社である東京電力ホールディングス社は、今回のりらいあ社の不祥事についてはどういった姿勢で臨むのでしょうか。グループ会社ではない「取引先企業」であり、また東証1部上場会社の不正ということで、契約解消等の対応で済ませる、ということなのでしょうか。東京電力グループとしても、取引先の不正を二度と発生させないように努める責務があるのではないでしょうか。

たとえば、東京証券取引所が2018年に定めた「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」を、東電も(上場会社である以上)遵守すべきです。ちなみに、同プリンシプルの原則6は以下のように定められています。

[原則6] サプライチェーンを展望した責任感・・・業務委託先や仕入先・販売先などで問題が発生した場合においても、サプライチェーンにおける当事者としての役割を意識し、それに見合った責務を果たすよう努める。

そして、原則6の解説部分には以下のような記述があります。

(解説)
6-1 今日の産業界では、製品・サービスの提供過程において、委託・受託、元請・下請、アウトソーシングなどが一般化している。このような現実を踏まえ、最終顧客までのサプライチェーン全体において自社が担っている役割を十分に認識しておくことは、極めて有意義である。自社の業務委託先等において問題が発生した場合、社会的信用の毀損や責任追及が自社にも及ぶ事例はしばしば起きている。サプライチェーンにおける当事者としての自社の役割を意識し、それに見合った責務を誠実に果たすことで、不祥事の深刻化や責任関係の錯綜による企業価値の毀損を軽減することが期待できる。

6-2 業務の委託者が受託者を監督する責任を負うことを認識し、必要に応じて、受託者の業務状況を適切にモニタリングすることは重要である。契約上の責任範囲のみにとらわれず、平時からサプライチェーンの全体像と自社の位置・役割を意識しておくことは、有事における顧客をはじめとするステークホルダーへの的確な説明責任を履行する際などに、迅速かつ適切な対応を可能とさせる。

当該プリンシプルは「不祥事予防」のための指針です。したがって、不正が発生した原因に東電が何ら関係がないのであれば対応は不要かと思います。しかし、上記新聞報道によれば、電力・ガスの自由化による競争激化が「根本原因」のように思われます。東京ガスや大阪ガスとともに、利用者の獲得競争が激しくなっていることは明らかでして、サプライチェーンの一環である顧客勧誘作業をりらいあ社に委託している以上、今後の不祥事予防のために、東電が果たす役割は大きいものと考えられます。

りらいあ社の当該不正は既に東電側に報告されているのですから、報告後、これまでに東京電力HDは何をしてきたのか、そして不正の根本原因についてはどのように理解しているのか、その結果として、プリンシプル原則6に従い、電話勧誘業務の監督については再発防止策を検討しているのかどうか、といったあたりの説明責任を果たすべきではないでしょうか。さらに、東京電力HDによる「根本原因」の理解によっては、東電のグループ会社の(委託先に対する)監督状況に問題があることも考えられます。その場合にはプリンシプル原則5(グループ全体を貫く経営管理)の指針に沿った対応が求められるので、これを踏まえても十分な説明が求められるものと思われます。


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2020年6月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。