核使用にも言及する「台湾防衛法」、米上院に提出されたその中身

高橋 克己

米上院「台湾防衛法TDA : Taiwan Defense Act」が提出されたと16日(東部時間)の政治紙ザ・ヒル(The Hill)が報じた提出者はミズーリ選出の共和党ジョシュ・ホーリー(Josh Hawley)議員。ネット法案を見付けたので、本稿ではその中身を紹介する

最近は日本でも、特に中国に関係する米国の議員立法をよく耳にする。「台湾関係法」や「台湾旅行法」「香港人権法」香港政策法そして5月には「ウイグル人権法」も上院で可決された。ファーウェイ5G包囲でも米国製機材利用法の網を掛ける。しかもほとんど超党派だ。

目下世界は、共産党一党独裁の下「偉大な中華の夢」を追う習近平中国の全体主義・覇権主義、トランプの「アメリカファースト」との正面衝突の様相だが、米国第一を貫くためなら国際問題への関与を控える部分を薄めも、対中政策に集中することの一環とみられる

急に持ち上がったドイツ駐留米軍の削減も、このTDAの記事をザ・ヒル紙に書いた元国防省在籍の台湾通ジョセフ・ボスコ(Joseph Bosco、台湾の夜通し防衛(Overnight Defenseのためにドイツから引き抜く(pullとの見方を示唆している。

ジョシュ・ホーリー議員(本人ツイッター:編集部)

提案者の言

TDAについてホーリー議員自身がこう述べている

TDAは、米国が中国共産党攻撃的な軍事力増強に直面しても、台湾関係法に基づく義務を引き続き満たすことを保証している TDAは、国防総省に対し、台湾に対する中国の侵攻、特に中国の既成事実化打ち破る能力を維持し、この目標への進展について定期的報告を要求

台湾は自由で開かれたインド太平洋の要である中国共産党が台湾の支配を奪許すならそれは地域を支配する準備に与することになる。これは我々のアジアの同盟国とパートナーのみならずそこで働く米国人の命と暮らしに容認できない脅威をもたらすそれを許してはならない。

特徴的なことが二つあるように思う一つはTDA国防総省に対して台湾の状況に関する定期的な報告を求めていること。「香港人権法」も、国務省に対して香港の一国二制度維持状況の調査報告を求め、場合によって「香港政策法」や新たに設けた制裁発動をするという枠組み

他は中国による「既成事実化(fait accompli)」に焦点を当てていること法案中この耳慣れないフランス語「fait accompli」が30回も出てくるなるほど、オバマ傍観要塞化された南シナ海や、2ヵ月以上も続く尖閣への領海侵犯を見るにつけ、既成事実化という国の常套手段の脅威が知れる。

ボスコ氏、中国の対台湾「国家分裂法ASL」は、カーター政権が中国を承認した79これを懸念し議会が通した「台湾関係法(TRA)」に対する「中国の回答」としつつ、台湾独立派武力攻撃を謳ったASLに対抗するにはTRAは弱いとしTDAの必要性を主張する

法案の中身

目的」に台湾に対する中国の既成事実化を否定する米軍の能力維持、その他」とあり、既成事実化の定義中国が軍事力で、米国が効果的に対抗する前に台湾の制御い、米軍が効果的な合同の応戦を行うことが困難かつ高く付くとして、米国を思い止まらせる戦略」とある。

議会の認識ではTRAには「台湾人民の安全保障や経済体制を危険晒す強制や軍事手段に対抗する米国の能力を維持する」との方針確立するとあるがしかし、そのためには「中国による既成事実化をさせない合同作戦を維持する能力が要る」とする

そのため国防長官は2021年から2026年まで毎年4までに国防総省の委員会に、中国が台湾に対し既成事実化をさせない米軍の合同作戦能力の向上に関する進捗状況を報告する」こととし、報告には「米軍を組織、訓練、装備化し合同戦闘能力を高める取り組み」などが含まれる。

「合同戦闘能力」には、「国防長官が、陸軍、海軍、空軍、海兵隊、および宇宙軍の作戦概念を企画し統合して合衆国軍の合同指揮を実施する能力を維持または改善する方法の説明と、そのような目的を達成するためのオペレーション」が含まれるとする。

そして最後に核兵器言及する。すなわち、「台湾に対する中国の既成事実化を阻止または打倒する上での米国の核軍事力の役割評価」として、「ロシアと北朝鮮に対する米軍の戦略・戦術核抑止力を損なうことなく、インド太平洋における中国の限定的な核使用を抑止する」とる。

その上で、「中国かあるいは米国による核兵器使用の後に、米軍は台湾を防衛する合同作戦を継続することを可能にする能力を保証する」とある。

何とも戦慄を覚える内容だしこのTDAが公開されていること自体にも不思議な感覚を持つ。中国も当然見るからが、むしろ中国に米国の決意を知らしめる効果を狙っているのかも知れ。この先、上下両院議会を通った暁に、果たしてトランプは署名するだろうか。