ドイツ南部バーデン=ヴュルテンベルク州の州都シュトゥットガルトで20日深夜から翌日未明にかけ、500人余りの若者たちが暴動を起こし、警察隊と衝突、市内の店を襲撃し、略奪などを繰返した。地元警察は衝突の規模の大きさに困惑し、「このような暴動がシュトゥットガルト市で過去起きたことがない」と唖然としている。
暴動の直接の契機はパトロール中の警察官が麻薬取締りをしている時、警察の職質に抵抗する若者(17歳、ドイツ人)に他の若者たちが同調、便乗して、警察官に抵抗。パーティ・イベントで集まっていた若者たちがそれに加わり、暴れ出した。暴動者の数がどんどん増えて対応しきれない地元警察は連邦警察に救援を要請、暴動は21日早朝3時頃になってようやく沈静化した。約40店舗が破壊され、一部略奪され、駐車していた自動車の窓が壊されたりしたという。
ドイツ第6番目の都市(人口約62万人)であり、ドイツを代表とするダイムラーやポルシェの本社がある同市でこのような大規模な暴動は過去、発生したことはない。フランツ・ルッツ市警察長官は21日、「現時点では暴動の背後にはいかなる政治的動機も見当たらない」と説明、「これまでになかった規模で、警察隊への暴行と略奪が起きた」と語っている。同長官によると、19人の警察官が負傷し、24人(12人ドイツ人、12人外国人)が拘束されたという。警察側は、暴動を撮影したビデオなどがあれば、警察側に提供してほしいと呼びかけている。
ドイツでは、極右過激派や極左グループによる暴動や破壊行為が絶えない。例えば、ドイツ中部ヘッセン州カッセル県では昨年6月2日、ワルター・リュブケ県知事が自宅で頭を撃たれて殺害される事件が起き、ドイツ国民に大きな衝撃を与えたばかりだ(「極右過激派殺人事件に揺れるドイツ」2019年6月28日参考)。
極右過激派や極左過激派の動向は連邦警察や憲法擁護庁がマークし、監視しているが、今回のような政治的目的のない、大規模な暴動は警察側にとって想定外の出来事だ。
それでは、なぜ500人余りの若者が集まり、暴動を起こしたのだろうか。暴動を事前に計画した者はなく、突発的に生じたものとすれば、なぜ多くの若者は警察官に向かって石を投げたり、襲撃したのか。警察官から取り締まりを受けた1人の若者への同調だけでは理解できない。
以下、暴動の背景を少し考えてみた。
①今年に入り、中国湖北省武漢から発生した新型コロナウイルスが欧州でも大暴れし、多数の感染者、死者を出してきた。欧州各国は外出規制、経済活動の停止などを実施する一方、スポーツ・文化イベントの開催中止に追い込まれてきた。同時に、短時間労働制の施行などで労働者の雇用確保に努力してきたが、多数の労働者は職を失った。
すなわち、欧州では多くの国民が新型コロナの感染に「不安」を感じる一方、生活維持のためには、欲しいもの、やりたいことを我慢し、節約しなければならなくなった。6月に入り、外出規制・渡航禁止は解除され、夏季休暇で旅行できる道が段階的ながら開いてきたが、例年のように海外旅行を楽しむには経済的に厳しい人々が増えてきた(ドイツを含む欧州の社会事情)。
②米国各地では現在、米ミネソタ州のミネアポリス近郊で警察官に窒息死させられたアフリカ系米人、ジョージ・フロイドさん(46)の事件(5月25日)に誘発された人種差別抗議デモが行われ、多くの若者が路上デモに参加している。一部では警察側と衝突し、暴動、略奪も起き、逮捕者、負傷者も出てきた(米国の人種差別抗議デモの影響)。
ドイツの今回の暴動ではパーティ・イベントに参加していた多くの若者が加わっている。若者たちは「不安」と「閉塞感」の中にあって、自身の溢れるエネルギーをぶつける対象を見いだせずにいる。だから、なんらかの切っ掛けさえあれば、それは容易に暴発することを今回の出来事は端的に示している。
与党「キリスト教民主同盟」(CDU)のクランプ=カレンバウアー党首は、「警察官の保護を強化する一方、暴動に対しては毅然とした態度で対応しなければならない」と述べている。ドイツでも警察官への尊敬心が失われ、警察官への暴行、襲撃が増えてきている。昔は警察官のユニホームに憧れる若者がいたが、現在では警察官の制服は怒りをぶっつける対象となってきた。
シュトゥットガㇽト市内の暴動には政治的動機が見当たらない、ということもあって、メディアの扱いはあまり大きくないが、暴動に走るドイツの若者たちの怒りや苛立ちを過小評価してはならないだろう。家庭の崩壊が進む欧州社会では、多くの若者は自身の怒りをぶつける父親が不在のため、社会の「権威」を代行する警察官に投石するケースが出てくるのだろう。
ジェームズ・ディ―ン主演の映画「理由なき反抗」( Rebel Without a Cause、1955年公開)は今なお多くの映画ファンの心を捉えているが、ドイツの「理由なき暴動」は今後、欧州各地の都市にも波及する危険性がある。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年6月23日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。