テレビ出演で野菜やフルーツを畑から盗むドロボウに伝えたかったこと

黒坂岳央(くろさか たけを)です。
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熊澤充/写真AC

先日、テレビ朝日の「真実の行方」という番組に出演して、野菜やフルーツを盗む犯人像と販路についてコメントさせてもらった。これまでテレビに出た時は、自分が住んでいる熊本県に東京から取材に来てもらっていたが、今はコロナ禍の最中ということもあって、Skypeによるリモート出演になった。

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今回の記事では、野菜やフルーツを畑からドロボウする輩たちに伝えたいことをまとめておく。

 以前の記事では白菜ドロボウについて詳細を書いた。参考まで。

彼らの犯人像は?

農家の人たちが手塩にかけて育てた、大事な野菜やフルーツを盗む。まさに人の心を忘れた鬼の仕業だが、そんなことをするヤツらの正体を語っていきたい。

彼らの手口を見ていると、プロとアマの犯行に分けられるだろう。アマは畑からメロンやスイカを1玉、2玉の小さな規模で盗む。以前読んだニュース記事だと、わざわざ隣町まで自転車で遠征したおばあちゃんが、夜陰に乗じて畑から盗もうとしたところ、夜間パトロールに御用となったというものがあった。

「メロンを食べたいけど高くて…」と言うことだったが、だからといって盗まれる側は生活がかかっているのだから、断じて許される行為ではないだろう。農家によっては「毎年、少量取られるのは想定内。もうイチイチ驚かないよ」という人もおり、聞いているこっちは悲しくなってしまう。

HiC/写真AC

そして問題はプロの犯行だ。彼らは戦略的に、経済的利益を考えて犯行に及ぶ。銀行強盗をする者は「凶悪犯罪者」というイメージがあるが、野菜やフルーツドロボウにそのような印象を持たず、どこか平和的で牧歌的な印象を持つ人もいると思う。だが、実質的にはまったく同じだ。経済的価値があるものを不当に強奪する行為としては何も変わらない。

さて、プロとアマは何が違うのだろうか?プロの彼らは、一晩で200玉、300玉という規模で盗みを働く。悔しいことに畑に鍵はかけられない。フルーツギフトのビジネスをして、1日で数千玉のスイカやメロンを出荷する立場から言わせてもらうと、これだけの数量を農家にバレない短時間で盗もうとすると、それはもう、組織ぐるみでやらないと不可能だ。軽トラじゃ数百玉は乗せられない。つまり、しっかり4トントラックを準備して、人数を集めた上で犯行に及ぶ。ハナから盗む気満々のプロの犯行だ。

 販路はどこなのか?

アマはともかく、プロはどこに売ろうとしているのか?その販路も防犯の観点から語っておく。それは市場とネットオークションだ。

すべての市場というわけではないけど、市場によっては身分証明書なしで誰でも持ち込んだ野菜やフルーツを売ることができる。偽名でもバレない。自分が知っている市場では、兼業農家が自分の畑で作った野菜を売りに来て稼いでいる。そこに盗んだ野菜やフルーツを持ち込まれることがあっても不思議じゃない。もちろん、売れなければ手元に返ってくることになる。だが、昨今の野菜やフルーツの高騰が続いているから、傷だらけやよほど未熟なものでない限り完売するのが普通だ。

さらに最近ではネットオークションで売っている事例もある。特に最近はコロナ禍で巣ごもり消費が活況で、ネット通販は売れに売れる。筆者もサクッと検索してみたが、「これはどう考えても利益は出ないだろ…。」と思えるような値付けで野菜やフルーツが売られているアカウントを見ることがある。

「市場で新鮮なものを仕入れています!」というキャッチフレーズがつけられているが、送料を考えたらどんなに安く仕入れてもほぼ赤字。副業として背取りビジネスライクにやっていると考えるには、あまりにも不自然なアカウントがいくつかある。「これ、盗んだもの売ってるのでは?」と考えるのは自然ではないだろうか。自分が見たらすぐ分かるけど、一般の人からすると「良心的な価格で、新鮮なものが通販で手に入る」と喜んで買うだろう。…その裏には農家さんのご苦労があると知らないまま。

ドロボウは農家の地獄の苦しみを理解せよ

番組でも述べたけど、野菜やフルーツを作る農家にとっては、手塩にかけて育てた我が子を奪われる苦しみがある。ドロボウたちは直ちに止めろ。地獄に落ちても不思議じゃないレベルの苦しみを、農家に与えていることを理解してほしい。

ドラム缶が吹き飛ぶほどの台風の中でも、畑のフルーツを守りに行く農家を知っている。下手したら本当に死ぬ。それでも大事に育てているから、守りに行くという。ドロボウは「野菜やフルーツなんて水と肥料をまいたら勝手に大きくなる」と思っているのかもしれない。

違う。きれいな形のスイカは毎日毎日、太陽の動きに合わせて転がすという作業をしている。100玉あればその作業は×100回だ。大きいスイカは1玉10kg、15kgに成長する。炎天下で腰を折って思いスイカを転がす作業をやる人間の苦労を考えてほしい。最後の最後、収穫した時に盗んでいいところだけ持っていく。

これは妊婦さんがつわりや胎動、出産の痛みに耐えて耐えて、ようやく出産した赤ちゃんを横からかっさらわれるようなものだと思ってほしい。悔しいなんてもんじゃないだろう。盗む側はそんな血と涙の混じったお金をもらって、その後の人生を幸せに生きていけると思うのだろうか?

少しでも盗まれて悔しい思いをする人が減って欲しい…。筆者はその思いをテレビ出演を通じて伝えたかった。

 

ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。