アジア太平洋交流学会会長 澁谷 司
11月3日、米大統領選挙が行われる。事前の世論調査では、民主党の大統領候補、バイデン前副大統領が、トランプ現大統領(共和党)を10ポイント前後リードしているという。そのため、我が国のメディアは、こぞってバイデン候補の優勢を伝えている。だが、果たして、それは正しいのだろうか。
そもそも米国メディアは大多数が民主党系であり、かつ、トランプ大統領が好きではない。したがって、米国の調査自体にバイアスがかかっているのではないか。加えて、我が国の大半のメディアはあまり現地取材をしないで、米国メディアの偏った報道を日本に流している。
さて、10月に入るとすぐに、トランプ大統領が「新型コロナ」に感染して入院した。一見、これが、米大統領選直前にしばしば起こる「オクトーバー・サプライズ」で、バイデン候補の勝利が決まったかのように思えた。
実は、中国共産党の「反習近平派」(「上海閥」の江沢民・曽慶紅・孟建柱ら)が、突如、バイデン候補が不利となる3枚のハードディスクをホワイトハウス・米司法省・民主党へ送ったのである(2020年10月19日付『自由時報』「『江沢民派』は3ハードディスクで、バイデン候補の息子のセックスビデオおよび彼と習氏の45億ドルの秘密協定を暴露」)。
1枚目のディスクでは、バイデン候補の息子、ハンター・バイデンと習近平主席並びに王岐山副主席間の利益供与(45億米ドル<約4725億円>)に関する秘密協議を暴露している。2枚目は、習主席と王岐山ら共産党幹部の海外資産と私生児のリストである。3枚目は、中国が製造し散布した「新型コロナ」(=「武漢肺炎」)について記録されている。
今回の米大統領選では、ロシアと中国が深く関与しているという。だが、米ロ両大統領の関係は良好なので、おそらくプーチン大統領はトランプ氏を支持しているだろう。
けれども、習近平主席にとってトランプ再選は“悪夢”に違いない。トランプ政権は、今の習政権に対し、強硬姿勢で臨んでいるからである。だが、バイデン候補ならば、その圧力が弱まる公算が大きい。
もし、トランプ大統領が再選されれば、中国包囲網(基本は日米印豪)が完成し、共産党の政権維持は更に難しくなるだろう。だから、北京政府としては、何としてもバイデン候補に勝って欲しいのではないか。
ところが、「反習派」は、トランプ政権を利用して、習主席を打倒しようと試みているふしがある。そうでなければ、「反習派」がバイデン候補の致命傷になりかねない“秘密”を敵国に売り渡す事はしないだろう。
しかし、習近平政権が倒れたら、共産党政権自体の存続が危ぶまれる。「反習派」としても、自滅する恐れが十分あるだろう。それにもかかわらず、「反習近平派」はトランプ大統領再選を望んでいる。「反習派」は習主席をよほど憎悪していると思われる。「反腐敗運動」で「反習派」は痛い目に遭っているからだろう。
さて、周知の如く、米紙『ニューヨーク・ポスト』が、バイデン候補と「習近平派」の癒着をすっぱ抜いた。ウクライナの天然ガス会社「ブリスマ・ホールディングス」は中国華信能源(CEFC)と関係が深い。バイデン候補の息子、ハンター・バイデンはブリスマ社幹部とのメールのやり取りをしていたのである(なお、FBIがすでにハンターのPCとハードディスクを押収したという報道もある)。中国華信能源がハンターに紹介料だけでも毎年1,000万米ドル(約10億5,000万円)を献金していたという。
ところが、驚くべき事に、Facebook社やTwitter社が、この記事の拡散を阻止したのである。ひょっとして、Facebook社やTwitter社としては、このニュースがバイデン候補にとって“致命傷”になりかねないと考えたのではないか。FacebookやTwitterが、どれほどバイデン候補に肩入れしているのか、中国共産党に“忖度”しているのかという証左だろう。
早速、米上院司法委員会はFacebookやTwitter社のCEOに召喚状を送付した。米国は中国とは違って、情報の隠蔽に対しては厳しい。まもなく、Twitter社は記事の拡散を阻止する措置を条件付きで撤回した。結局、Facebook社やTwitter社の情報隠しによって、かえって有権者がバイデン候補への反発を強める可能性もある。
一方、民主党副大統領候補のハリス上院議員のスタッフら計3人に新型コロナの検査で陽性反応が出た。今までトランプ大統領を指弾してきたバイデン陣営だが、大統領選挙は混戦の様相を呈している。
こうなると、トランプ大統領の再選の目も十分出て来たのではないか。したがって、現時点においては、トランプ再選とバイデン当選の確率は五分五分と見てよいだろう。
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澁谷 司(しぶや つかさ)
1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。元拓殖大学海外事情研究所教授。専門は、現代中国政治、中台関係論、東アジア国際関係論。主な著書に『戦略を持たない日本』『中国高官が祖国を捨てる日』(経済界)、『2017年から始まる!「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)等。
編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2020年10月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。