オーストリア保健相「人との接触3分の1少なく」

アルプスの小国オーストリアにも新型コロナウイルス(covid-19)の第2波が直撃し、ここ数日で新規感染者が急増、30日には一気に5000人を超え、同国の医療体制を脅かしてきたことを受け、同国は緊急に感染規制の追加措置の実施に入った。

▲新型コロナウイルスの感染者数の動向(オーストリアAgesサイトから)

▲オーストリアの新型コロナ対策の前線で健闘するアンショ―バー保健相(オーストリア保健省公式サイトから)

9月に入り、新規感染者数が1日1000人を突破するか否かに関心が注がれたが、一旦1000人台に入って、そのテンポは加速し、3000人、29日には4600人を突破すると、クルツ首相らは緊急記者会見を開いて、国民に感染措置の徹底と今後の対応への心構えをアピールしたばかりだが、30日には5627人となり、政府がレッドラインと見てきた新規感染者数6000人はもはや時間の問題となった。ちなみに、31日は5349人だ。

10月30日現在、治療を受けている患者数は1803人、そのうち集中治療を受けている患者数は263人。累計死者数は1079人。過去1週間、人口10万人当たりの感染者数は277人だ。

オーストリアは新型コロナが感染し始めた3月にはいち早く国境を閉鎖する一方、ロックダウン(都市封鎖)を実施し、外出制限、マスクの着用、ソーシャルディスタンスを他国に先駆けて実践し、感染拡大の防止に成功。しかし、夏季休暇後、新規感染は拡大し、もはやストップできない状況だ。

クルツ首相は8州の代表、経済界、保健関係者を集めて緊急会議を開き、緊急対策を協議。最終的には、第2のロックダウンを実施するが、第1とは異なる(ロックダウン・ライト)。具体的には、①学校、大学など教育関連施設は閉鎖しない、②通常の営業は午後8時まで認め、仕事など以外の外出は午前6時から午後8時までに制限する。それ以外の措置は第1のロックダウン時と同じだ。第2のロックダウン・ライトは11月3日から施行予定だ。

欧州では隣国ドイツが同じように部分的ロックダウンを実施中、スロベニアでも同様だ。チェコは完全なロックダウンを実施するなど、周辺国は既に第2波対策を実施してきた。

オーストリアが第2波への対応が遅れたのは、第1波の時のように国民経済を完全にストップはできないという判断があり、感染防止対策と国民経済の維持のバランスに腐心してきたからだ。経済界からの圧力があったことも事実だ。

特に、同国の主要外貨収入先の観光業は新型コロナの感染拡大で壊滅状況だ。ドイツなど欧州諸国はオーストリアを渡航危険地域に指定したため、隣国からの観光客は期待できない。外国人旅行者で潤ってきた音楽の都ウィーンのホテル業界は悲鳴を上げている。

ここにきて、国民の間で“コロナ疲れ”が見え、政府の感染対応の措置に対して不満が高まっている。10月26日のナショナル・デーには1500人余りの規制反対グループがオペラハウス前で抗議デモ集会を開催した。彼らはマスクをつけず、ディスタンスを無視。一部のデモ参加者はマスクを火に燃やし、政府の措置に不満を表明したばかりだ。

コロナ関連法から見た場合、コロナ対策を意識的に無視する国民に対して警察側は取り締まることが出来るが、抗議デモ参加者の暴発を恐れ、距離を置いて静観するなど、政府・警察側も対応に神経を使っている。

同国の新型コロナ対策の前線に立つアンショーバー保健相(「緑の党」)は30日、国民に向かって、「どうか社会的コンタクトを自粛してほしい。人との接触を3分の1自粛すれば感染危機は半減する」とアピールしている。同保健相によると、集中治療用ベッドの収容能力も急速に限界に向かっている。このままの傾向が続くならば、11月中旬から下旬には限界になる。すなわち医療崩壊だ。

新型コロナ感染の動向をコンピューター・シミュレーションを駆使してフォローしているニキ・ポッパー氏は、「自由時間でのコンタクト、移動の縮小は急増する新規感染者を抑制するためには避けて通れない」と述べ、外出自粛、社会的コンタクトの制限が感染防止の要と強調している(オーストリア国営放送)。

一方、オーストリア医師会はアンショーバー保健相の新型コロナ対応について、「保健省関係者は夏季休暇中に、第2波への備えをすべきだった。新型コロナ感染防止が成功するか否かは国民の対応にかかっている。保健相は明確なコンセプトを国民に提示できないでいる」と批判している。

野党からはクルツ政権(「国民党」と「緑の党」の連立政権)の新型コロナ対策への批判が聞かれるが、与党「国民党」は「わが国は目下、経済的にも緊急事態下にある。各政党は政治的計算などで動かず、結束すべき」と主張している。

なお、欧州のウイルス学者は「第2波はまだピークにきていない。本当のピークは来年2月、3月頃だろう」と警戒している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年11月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。