菅総理の賭け

タイトルに菅総理の「賭け」という言葉をあえて使わせて頂いたのは総理の記者会見でのこの一言が気になったからです。

(令和3年1月7日 新型コロナウイルス感染症に関する菅内閣総理大臣記者会見 首相官邸HPから:編集部)

「これ以上の感染拡大を食い止めるため緊急事態宣言を決断した。1カ月後には必ず事態を改善させる」

「必ず事態を改善させる」などということは選挙戦の街頭演説ではないのですからそんな表現は使うべきではなかったと思います。かつて安倍元首相が森友学園問題の際に自分がかかわっていれば総理も議員も辞職するというあの有名な問題発言と同じベクトル上にあります。

増え続ける感染者対策について今回の緊急事態宣言の内容で感染拡大を止めるという確証は何処にもないし、多くの専門家がひと月では無理ではないか、と疑念を持っています。今回は飲食店の営業を中心とした規制でありますが、これではざる規制の感がいたします。

一つの疑問としてこの要請に応える飲食店が何%あるかであります。仮に7割がそれに従ったとしても3割が無視して営業を続ければ多額の税金を使い、支援金を払っても効果は激減します。飲み屋ビルなどでは扉の向こうは平常営業、のぞき窓で相手を確認して、役所の見回りが来れば閉店したふりをするというのはごく普通の手段でしょう。

家などに人を呼んだ場合、どうなるのか、という問題もあります。昨年話題になったパチンコ店も今回、補助金がないので多くが継続営業しそうですし、そもそも昼間は飲食を含め普通に営業しているのです。これで本当に感染が食い止めらえるならよいのですが、私にはそうとは思えないのです。

ここカナダ、BC州では飲食店の同席は同じ場所にいる人同士(same bubble)のみに規制されており、入店時に免許証で住所確認もあります。これに失敗すると当局から高い罰金とブラックリスト入りになります。家でのパーティーも禁止。年末にそのような違反行為をした人たちは目の玉が飛び出るような罰金を貰っています。海外の場合、様々な人種がおり、考え方がまちまちな為、罰則規定を持つ強権力で抑え込むのは当たり前です。

その点、日本はいまだに日本人だけだと考えているところが一つ目の間違いです。コロナ前の日本居住の外国人は280万人でしたから今でも少なくとも200万人はいるのでしょうか?つまりワンルールで処理できたのは何十年も前の話なのです。

次に日本人は昔のように「お上からのいうこと」を聞かなくなったと思います。今回の緊急事態宣言にかかる街頭インタビューでも報道自体にバイアスがあるとしても政府の意向に反するコメントは多かったようです。つまり日本全体が一枚岩になっていません。これは政府に理由があるわけではなく、SNS等で多くの人が自分の考えを持つようになったことはあるでしょう。それはよいことである反面、「自分に都合の良い解釈」をするわがまま派も増えたかもしれません。

このような中、1か月後に感染拡大が収まっていない場合、どうするのか、あるいは大阪や名古屋など他の都市圏を含めた影響の可能性はどう勘案するのかを含め、職をかける気ともとれる菅総理の「一か月宣言」は、結果が優れなければ野党からの猛攻を受け、医師会や専門家、更には国民からも不満が漏れ、小池都知事は「ほら言ったでしょ」と責任を擦り付けるシナリオがはっきり見て取れます。

今、政府が一体となって設定する目標はオリンピックではなかったでしょうか?組織委員会の森会長は「不安?、まったくありません」と相も変わらずすっとぼけた発言をしていますが、物理的に開催うんぬんより日本の威信がかかっている中で世界は「日本は感染者急増、それでもブレーキを踏み込めない中、大丈夫か?」という疑念はあります。IOCがどれだけGOサインを出しても参加ボイコット国が続出となる公算は大いにあるとみています。1980年のモスクワ五輪の参加国が80か国だったのですが、そんな大会は不名誉極まるのではないでしょうか?

実は私も2月に業務の関係で日本に行く予定で具体的プランも立てていたのですが、止めました。制約が多いことよりも怖さを感じるのです。日本人は外国人がウイルスを持ってくると思っているかもしれませんが、逆の見方もある点は考慮すべき点でしょう。

菅総理の賭けが悪くならないことを祈ります。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年1月8日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。