1月16日の朝日新聞朝刊7面に「不適切会計 高止まり-昨年JDIなど58社60件」と題する記事が掲載されておりました。コロナ禍においても上場会社の会計不正事件の発覚が高止まりしている、とのことで、監査法人などのチェックが厳しくなっていることも発覚の高止まりの要因であると分析されています。
ただ、記事では会計不正事件は発生してから発覚するまで、どの程度の期間を要するか・・・という点は明らかにされていません。記事で紹介されているJDI事例も、またエフオーアイ事例も、そしてUMCエレクトロニクスの事例も、(調査期間の選定理由にもよりますが)少なくとも発生から4~5年ほど経過した後に発覚しています。
昨年、私が第三者委員会の委員長を務めたハイアス&カンパニーも2015年ころから不適切な会計処理が行われていたことは報告書記載のとおりです。つまり、不適切な会計処理が開始されてから3~5年ほどは(経営者が認識しているかどうかは別として)投資家は「過去の決算数値」についても、また「将来の会計不正リスク」についても騙され続けている、ということです。赤字なのに黒字決算であったり、公募増資が行われていたり、優良企業として資本提携の対象になっていたりすると、もう目も当てられないことになってしまいます。
ところで、当ブログで何度も申し上げているとおり、コロナ禍の監査は会計監査にせよ監査役監査にせよ、かなり問題を抱えているのが現実です。私が相談を受けているかぎりにおいては、まず監査役監査は平時からの監査自体が手薄になってしまった(監査が不十分であった)企業が多く、また、会計監査においては、経理部や監査役から(財務報告の信頼性の疑義を払しょくするために)必要な情報が会計監査人に届いていない企業も多いようです。そのうえで新型コロナに起因した業績悪化が明確になってきた企業も出てきており、海外子会社だけでなく、国内グループ会社を含めて不適切な会計処理が行われている件数は間違いなく増えているはずです。
不正が発生しても、発生からそれほど時間が経過していなければ社内で(とりあえず適正に)処理できる場合も多いので、会社も株主もそれほど大きな損失を被ることもないでしょう。ただ、さすがに「あやしい」と思っても「会計処理に問題あり」と声を上げることができる環境は築かれていないはずです。上記朝日の記事で紹介されていたUMCエレクトロニクスの事例では、5件もの公益通報(申告および内部通報)によって不正疑惑が定時株主総会の直前に発覚しましたが、役職員の誰一人として総会で「粉飾の疑義」を指摘できる人がいませんでした。
昨年同様、今年も「定時株主総会は6月に開催すること」にこだわる上場会社が多いと思いますが、そうなると、とても監査の不十分性は総会でも有報でも語られませんから、不正会計のリスクはますます高まることになります。今年の6月総会では令和元年改正会社法が施行されますので「社外取締役が期待された職務を果たしたのであれば、その内容」を事業報告に記載することになりますが、ホント、大丈夫でしょうかね(^^;?
また、架空循環取引における取引相手の破たん(相手方にトラブルが発生すること)や国税による調査、株主からの調査要請などの「不正発覚の端緒」も、おそらく不正開始から数年内に偶発的に発生する可能性が高いと思われます。そうしますと、コロナ禍における会計不正事件は、これから3~5年ほどで社会的に認知される(会社もしくは第三者から公表される)ことになるのでしょうね。
1月16日の日経朝刊3面記事では「今年の上場見通し 100社規模」と報じられており、相変わらずコロナ禍でもIPO企業の数は高い水準で推移するようです。ただ、3~5年後に上場前からの不正が発覚する、たとえ後悔して不正会計を途中で(コソっと)止めたとしても、過去の不正を東証は許してくれない、ということを前提としますと、これからIPO企業に投資をされる方はガバナンス評価を怠らないことが肝心だと思います。
編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2021年1月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。