「自覚のない犯罪者」は自覚ある犯罪者より遥かに多い

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

我が国は法治国家である。そのため、他人を傷つける、ましてや殺めるという行為は断じて許されない。警察の取り締まり努力や、国民的モラルの高さが手伝い、現代人である我々は世界屈指の平和を享受できている。素晴らしいことだ。

表向き、他国に比べて人を殺めるような凶悪事件の絶対数は少ないように思える。だがその実、「間接的犯罪」となると話は違ってくると思うのだ。Books&Appsに掲載された「人殺しの顔をしていない、人殺し」が、怖くてならない。という記事に触発され、筆者もこのテーマについて思うことを話したい。

leolintang/iStock

「普通の人」にまぎれている無自覚な犯罪者たち

以下は独断と偏見による、個人の勝手な想像であることをお断りしておく。そこを踏まえていうと、ニュース欄で大きく取り上げられるような「力づくで人命を奪う悪質極まりない事件」よりも、心無い言動により「間接的に人生を閉じるきっかけを作った事件」の絶対数が多いと考えている。否、後者は事件として取り上げられていないケースの方が多いくらいで、実数の規模たるや想像できない。

たとえば、上記のBooks&Appsの記事内では「建設会社の手抜き工事」により、アパートの階段が崩れて人命が失われた「間接的殺人」が取り上げられている。また、他にも執拗な誹謗中傷や、パワハラ、詐欺まがいの案件で大金を失った絶望感で、自ら命を落とすように追い詰められる事件もあるだろう。だが、往々にしてこうした間接的犯罪についていえば、加害者は他人の人生に一撃を加えた自覚はないのだ

世の中の99%以上の人は、私欲のために他人を攻撃するような凶悪犯罪者とは程遠い存在だろう。だが、本人の想像が及んでいない領域で、間接的にそうなってしまっているケースは決して少なくない。

そんな普通の顔をした無自覚な犯罪者は、あなたの直ぐそばにいるのだ。

誹謗中傷で引退するブロガーやYouTuberたち

筆者はひそかに好きなブロガーやYouTuberがいるのだが、残念なことにこれまで彼らが「さようなら」の言葉も残さずに消えていくさまを見てきた。

ネタが尽きた、他にやりたいことができたなど理由は様々あるだろう。それは仕方がない。本人の自由意志に基づく選択なら、寂しくは思うがファンの立場からは新たな門出を応援したい気持ちになる。だが、「誹謗中傷を受けての引退」については、憎むべき犯罪の被害者であると言えるだろう。

オンラインで誹謗中傷をされたことのない人からは、想像もつかない話かもしれないが、1万人の応援メッセージがあっても、たった1つの誹謗中傷で引退を考えるほどの心に打撃を受けるものなのだ。さらにブログやYouTubeを本業にしていて誹謗中傷で引退する場合は、勤務先の失業に匹敵する甚大なダメージを被ることになる。だが、誹謗中傷をする本人は「自分が知らないこと、見えないものはないことだ」という認識だ。そうした場合は訴訟され、裁判所に引きずり出される段になってはじめて自らの愚行を理解することになる。

そしてこうした間接的犯罪者が公の場に姿を表してみると、彼らは「恐るべき凶悪犯罪者」というより「普通の会社員」とか「平凡な主婦」だったりするから仰天する。彼らは鬱憤を晴らすつもりで、カジュアルに攻撃をしていたりする。直接的殺人鬼は遠い存在に思えるが、間接的犯罪者は街の雑踏で通り過ぎても記憶に残らない、そんなごく普通の存在なのだ。普通の人と間接的犯罪者を隔てるボーダーラインは、あまりにも距離が近い。

人生を破滅に導く「稼げる系」「投資系」ビジネスマン

筆者が実際に自分の目で見たことがあるのは、「これで稼げます」とか「今なら利回り300%!」といった吹き込みをする人たちだ。もちろん、丁寧に想定リスクや手順を説明して、最大限配慮をする実直な人がほとんどだ。間違っても「稼げる系、投資系のすべてが詐欺」などと、主語の大きい事を言うつもりはない。ほとんどの実業家は誠実で人を幸福にする活動に励んでいると信じている。だが、一部においてあまりにも「売らんかな」が先行してしまい、買い煽りが過ぎた結果として相手の人生を破滅に導くケースも有る。

筆者が知っている人物は、「今買えば億万長者に!」という触れ込みで、高額セミナーへ入会させた上でたくさんの金融銘柄を買い煽ったものだった。結果として、複数人の人生破綻者を作り出した。中には年金ぐらしで虎の子の数百万円、数千万円の貯金を使い果たした者もいた。最終的に集団訴訟を募る事態となったが、買い煽りをした人物は「自己責任」の一言でこの悲劇の幕引きをした。

法的にこの人物がやったことは、犯罪に抵触しないかもしれない。だが、実態としては何人もの人生を破滅に追い込んでいるという事実が恐ろしい。被害者が生活苦で亡くなったら、間接的な殺人者になるというのに本人にそのような自覚は、まったくない。

ビジネスマンは、お客さんの人生を間接的に預かる責任がある。大げさなようだが、仕事をするということには他人の人生に影響を与える責任が伴う。それを忘れてしまったときから、無自覚に間接的な犯罪者への入り口に足を踏み入れることになってしまう。

間接的犯罪に手を染める人の問題点は、想像力の欠如だ。「自分の言動が、相手にどのような影響を及ぼすか?」ということを想像できていれば踏みとどまることも、それができないので踏み越えてしまう。「想像力を持ちなさい」と言われて、すぐ持てるわけではない。ソリューションとしては啓蒙活動、つまりは知識による防止だろう。すなわち、様々な事例を知識として入れることで、「自分がやろうとしている行為は、過去の事例に抵触する」という認識で思いとどまらせるのだ。職場におけるハラスメントも問題行動を言語化した啓蒙活動によって、効果が出ていると信じたい。

世の中から、間接的犯罪が少しでも減ればと切に願う。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。