コロナ禍で勉強しない日本人が増えた理由と解決法

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

従来から「日本人は社会人になると勉強しなくなる」と言われてきた。多くの人にとって最も勉強をするのは、大学受験時期であり、それが過ぎると勉強をやめてしまうという状況がずっと続いてきた。

そしてコロナ禍で余暇時間が増えた今、日本の社会人はますます勉強をしなくなってしまったという恐るべきデータが発表された。増えた自由時間は動画配信サービスや、スマホゲームなどで消費していると見られる。日本全体の今後の国力を考えると、戦慄すべき事態だ。だが、見方を変えれば他者を出し抜く下剋上のチャンスの到来とも取れる。

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なぜ、コロナ禍で日本人は勉強をしなくなったのか?どうすれば勉強したいと思えるのか?その理由を考察したい。

「日本の社会人は勉強しない」は本当か?

まずはリクルートワークス研究所の2021年7月5日に発表を確認したい。同調査は2016年から約5万人を対象にしたアンケート調査によるものであり、同一個人を追跡するパネル調査として「国内最大規模」とされデータの信頼性は申し分ないだろう。「学習・訓練」カテゴリの「学び」というすべての項目において、2019年から2020年にかけて大きく落ち込みが見られた。「学び」の定義は次のように包括的なものを示している。

難易度の高い、多様なタスクの仕事が任されている

  • OJTの機会がある
  • Off-JTの機会がある
  • 自ら学んでいる(自己啓発)

コロナ禍において、学びの機会が大きく失われたのは間違いないようだ。

そもそも、コロナ以前より「日本の社会人は勉強しない」と指摘する識者もいた。2019年に行われた文化庁の調査では、学生も含めた16歳以上の日本人の半数以上が1ヶ月に1冊も読書をしないことが明らかになっている。また、総務省統計局の「平成28年社会生活基本調査」では、「学習・自己啓発・訓練」に充てる時間は1日当たり平均6分という衝撃的な数字が出ている。

経済産業省「雇用関係によらない働き方に関する 研究会・報告書」によると、OECDの平均は18.1%に対して、日本はわずか1.9%しかない。「日本は~」という表現は、先進諸国との比較においても決して誇張や誤りではない。

日本人は何を勉強したら良いのか分からない

日本の社会人は勉強をしなくなる。それには家事育児に追われている、会社が学習費用の手当を支給しない、勉強する時間がないなど様々な理由があげられるだろう。だが日本人が勉強をしない一番の理由は別にある。それは「何を勉強すればよいか分からない」というものだ。

リクルートワークス研究所の2018年発表によると、勉強をしない理由に「あてはまるものがない…51.2%」となっており、突出している。言い換えれば「勉強の対象を見つけられない」ということだ。日本の社会人が不勉強である発表に対するSNSなどの反応を見ると、「勉強しても収入は増えない」「勉強をして昇進をしても、責任が重くなるだけで年収アップにならない」など、勉強をする意義を見いだせない投稿も散見された。

米国ではビジネススクールを出てMBAホルダーとなることで、自己投資にかかる時間やコストを回収できる算段が立つ。そのため、一部のエリート層は必死に勉強をする。その一方、日本では同様の自己投資が勤務先で報われるとは限らない。自己投資をしても時間やコストの回収見込みがないことも、不勉強になる原因としてあげられるだろう。

コロナ禍で、今後の先行き見通しは従来以上に不透明になっている。そんな中、人々はますます努力の力点を見失いつつあるのだ。

勉強する対象を見つける方法

多くの人は「勉強」と聞くと、資格取得や英語学習、プログラミングスキルといった領域を学ぶことを連想しがちだ。筆者は英語学習を指導する立場を取っており、間違いではない。しかし、重要なことは「学んでスキルを身に着けた”後”」である。「時間とお金をかけて学んでも、自分に返ってこないなら自己投資の意義がない」と感じられるだろう。

筆者からは「自分の市場価値を高めてくれる領域を学ぶ」という提案をしたい。これまでのキャリアや自分の能力を鑑みた上での現実的な選択だ。あなたの市場価値を高める領域は、あなたにしか分からない。会計の専門家であれば、より会計分野のスキルアップをする、法律なら法律の勉強をといった具合だ。もしかしたら、今の専門性に英語力、というスキルを加えることも検討できるかもしれない。だが、一部の人は今取り組んでいる領域にどうしても興味関心が持てないという人もいるはずだ。その場合は「上を目指す」のではなく「横の移動」を検討してもよいだろう。

筆者の知っている人は宇宙物理の研究者がいたが、能力の適性を再考した結果、学びを経て企業経営者へと転身した。これは「宇宙物理→ビジネスの経営者」という横への移動だ。専門外のことをやるには、知識が必要となる。そのタイミングこそ、勉強の必要性が生まれるだろう。

筆者も勉強をしてキャリアを「横」に移動した

筆者も人生の方向性が分からず随分と苦しんだ時期があった。長い間コールセンター派遣をしていたが、勉強の必要性を痛感して米国の大学で会計学を専攻した。勉強をして知識をつけたことで、外資系企業で会計の専門職についた。働きながら土日にビジネススクールに通って、IFRS(国際財務報告基準)の領域を学んでいた時期もあった。だが、結果的に筆者に会計領域への適性がないと理解し、起業した。

フルーツギフトのビジネスで起業をしたので、果物や贈り物、ECサイトの構築やマーケティングなどをゼロから学んだ。その他、文章を書き方を学び、ビジネスジャーナリストの仕事や講演、書籍の出版へとたどり着いた。「やりたい領域を見つける→その領域の勉強をする→仕事をしながら改善を繰り返す」ということを繰り返して今がある。直近では国立研究開発法人から、ビジネス講演への登壇依頼を頂いた。だが、今のままでは知識が不足している点があるため、有意義な講演にするために必死に勉強をしているところである。

最初にやるべきことは「勉強して知識を付けたい領域」を見つけることだ。闇雲に「とにかく勉強せねば!」と焦って勉強そのものが目的化してはいけない。まずは勉強する価値の感じられる対象を発見することが肝要であり、それにはリサーチという勉強が必要となるのだ。

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コロナ禍で勉強をしない日本人が増えた。だがこれは勉強をする者にとっては有利な状況でもある。今こそ、社会人は勉強をする時が来ているのだ。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。