アメリカの株高、国債高、ドル高のなぜ?

アメリカでは株高、国債高、ドル高のトリプル高と言われています。ただ、市場をよく見れば、金高、原油高、暗号資産高も含め、何でもあり、状態になっています。唯一は中国安ぐらいかもしれません。この「何でも高」でも一番理由がわからないとされるのが国債高(利回り安)とされます。

3月終わりにアメリカ10年物国債は1.765%をつけました。これはインフレ懸念から金融当局が引き締めをするのではないかと見た筋が国債を売ったのが原因でした。10年物国債はいわゆる住宅ローンの金利決定因子など、国債の中でも最も注視される期間もので、市場参加者による中期的な景況先行きの指標と言ってもよいでしょう。

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春以降、パウエルFRB議長はインフレは一時的だと言い続けたのですが、CPI(消費者物価指数)は上がり続け、13年ぶりのインフレ率となっています。フォワードガイダンスも先々の金利上昇予想が出ているのですが、その頃から10年物金利は下げ続け、現在は1.27%台となっています。

このなぜが解けないそうです。日経には「読み解くカギは投機筋主導による需給の変化」とあり、「米財政出動やインフレ観測を手掛かりに米国債を売っていた投機筋が一転、超長期債を中心に買い戻したことで米金利低下を促している」としています。つまりテクニカル要因ではないかというわけです。

それも理由の一つかもしれませんが、主因ではないとみているのがブルームバーグ。記事のタイトルは「パウエル議長も分からない米国債利回りが下がる理由-諸説紛々」となっています。

市場参加者としての体感からは景気回復が本物か見極められないのだとみています。株高だと言いますが、今週発表になっているGAFAMの決算は見事な数字が並びましたが株価はマイナスで反応しています。2-3週間前にこのブログで「決算発表は好決算をみて売りが入る可能性あり」と指摘しましたが、予想通りの展開となっています。なぜか、と言えば市場に高揚感が無くなっていることはあるでしょう。運用の理由でとりあえず買っているという状態かと思います。

コロナからの回復についてもワクチン接種率といった目標感が消え、9月の新学期からは北米では平常化に戻るところが多くなる中、その次のシナリオが不透明です。「本当に景気は良くなるのか」「コロナ患者は抑制できるのか?」「中国ときな臭くなってきているけど大丈夫か?」「ポストコロナで人々の行動変化がどうなるのか?」「半導体がなくてあらゆる産業が足踏み状態だ」など不安だらけなのであります。

こうなると景気が本当に回復し、金融当局が引き締めの具体案を展開するというストーリーは描けないわけで絵に描いた餅のようなものだとみています。日経の先ほどの記事には「いずれテーパリングの時期は訪れる。市場では緩和縮小を見越した円安予想が多い。バンク・オブ・アメリカの山田修輔氏は『テーパリングに向けて次第に米金利も上向く』として、年末に1ドル=116円を想定する」とありますが、これを言うのは時期尚早でしょう。

私はテーパリングが来るとは断言できないと思っています。先進国は経済の成熟化や不足したものだけを購入する「循環消費」が主流になる中で金利は下げても上げられないのが欧州と日本です。では北米だけ特別なのかといえばそんなことはないのです。消費や投資姿勢は確かに旺盛ですが、北米だけ地球全体で特殊な環境にあるわけではないのです。

今はゴルディロックス相場(適温相場)です。5-6月頃にこの夏の相場は大丈夫と申し上げたと思います。社会の行方、コロナの行方、中国の行方等に何らかの動きが出始める秋が肝になるとみています。そしてそれは今より良い話ではなさそうな可能性が高いのですから、ここを読み込めば今の相場は読み解けるでしょう。

もう一つ、インフレ率は通常前年同月比で表示されます。昨年の春がどんな状況だったか、覚えていらっしゃるでしょう。アメリカのCPIの推移をみていると6月の数字だけが突出してますが、5月までは納得できる反動高でありました。またCPIを大きく見せたのがガソリンなどの価格と半導体不足による中古車などいびつなものです。とすれば計算上、今後はCPIは落ち着いてくるはずです。私はパウエル氏のインフレは一時的の立場に賛同です。

最後に、「何でも高」の方程式の方程式を解きます。

先行き不安感アリ⇒国債高(金利安)⇒金利の目先引き上げなし⇒株高/金高⇒資金が北米に集まる⇒ドル高円安⇒新興国の為替の不安定感⇒暗号通貨に再度スポットライト

これで一応、話は繋がるのかと考えています。夏休みで参加する市場関係者も細っています。アメリカ金融当局も次の動きはジャクソンホール会合までなく、今年は8月26-28日です。9月のレイバーホリディ前のこの重要な指針発表まではコロナが急速に悪化するなど特別なことがない限り適温相場は続くとみています。中国は北戴河会議がそろそろ始まっているはずで8月中旬まで続くでしょう。よって、こちらも外交的には動かないと思います。

様子見相場、私はこれがあとちょうど1カ月続くのだろうとみています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年7月30日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。