テクノロジーは「幸せの国ブータン」を不幸にした

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

先進国では、比較的国家の経済規模を示すGDPの増減ばかりが注目されがちである。他方において、幸福度の指標である国民総幸福量(Gross National Happiness以下GNH)も存在する。

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ブータンは「国民の97%が幸福と答える・幸せの国」としてGNHの成功例として度々紹介されてきた。「先進国であるはずの我が国・日本は、どうすればブータンのように幸せの国になれるだろうか?」そんな議論が交わされてきたが、近年においてこのブータンの幸福度が著しく低下してきたという。その元凶はテクノロジー・インターネットだ。

ここに人間の幸福・不幸をわける分水嶺があると感じられる。我々が幸せになれるヒントはここにあるのではないだろうか?

ブータンは「知る」ことで不幸になった

なぜ幸せの国は不幸になってしまったのか?そのあらましはBusiness Insiderに掲載されたModern technology is slowly killing the mood in the ‘happiest country in the world’という記事で取り上げられている。

「ブータンがテクノロジーの到来で不幸になった」ということは、次のように紹介されている。

“In recent years, TV has been blamed for everything from Bhutan’s rising crime rate to its shifting demographics as rural residents head for bigger towns in search of work.
(近年では、ブータンの犯罪率の上昇や、農村部の住民が仕事を求めて大きな町に向かうことによる人口動態の変化など、あらゆる面でテレビが原因とされている。)”

テレビからの情報により、人々に思考や行動に影響を与えているというのだ。

また、同記事内ではテレビだけに留まらず、携帯電話やコンピューターなどの情報端末機器が浸透することによって、広告が入ってくるようになった問題を取り上げている。広告は見る人の経済的地位や満たされない欲望を刺激し、それによって犯罪や不安、憤りを生み出していると分析している。

ブータンは「知る」ことによって不幸になったのだ。

人は知ることで不幸になる

高度に情報化された現代においては、その気になれば住んでいる街の情報から地球の裏側で起きていること、また今迫りくる危機など様々な情報を得ることができる。内容によっては、知ることで恐怖や不安を掻き立て、知らなかった時より不幸にさせる事項も少なくないだろう。

たとえば、中国脅威論などもその1つだ。「核攻撃による日本への攻撃懸念」や「新たなウイルスの発生がすでに中国の一部で始まった」といった真偽の不明な情報を見るだけでも、我々は恐怖や不安を覚えるはずだ。だが、こうした真相がハッキリしない情報を知ったところで、具体的なメリットはなにもない。知ることで事前に備えたり、対策を取れる類のものでもないため、ただただいたずらに自身の心をいじめる行為に等しい。それなら、いっそまったく知らずに日々を過ごした方が幸福度を維持できるのではないだろうか。

それだけではない。大手メディアが不安を煽る他に、個人レベルでも人を不幸にする情報で世の中は溢れかえっている。近年においてSNSを中心に、きらびやな社会的成功やライフスタイルを投稿する様子も見られるようになった。これが人々により豊かな生活を渇望する源泉になっていると感じる。

また、身近な例としても一生懸命働いているビジネスマンが、人事評価でネガティブなフィードバックを受ければ大きなネガティブ感情を抱くだろう。自分は無縁だと思っていたガンに侵されているという宣告を受けたら、次の瞬間見ている世界は闇に包まれる。

「世界一不幸な感情を持っているのは、上の世界を知っているニューヨークに住むホームレスである」という言葉があるが、ネガティブなニュースや、他者比較に自らを投げ入れる行為は明らかに不幸への入り口なのである。

情報もミニマリストにする時代

「自分は情報感度が高いから、あらゆる情報を調べている」

「世の中を知るために、新聞を複数紙読むようにしている」

誇らしげにそう言ってのけるビジネスマンは少なくない。常に情報のネタを探し続けるメディアの人間ならそうした行為は肯定されるかもしれない。だが、情報力とは別の土俵で勝負するビジネスマンにとっては、むしろあれこれ情報を見すぎない方が良いように感じられてしまう。情報もミニマリストにする時代が来ているのだ。

筆者は意識的に見たくない情報は、意識的に遮断するようにしている。恐怖や不安、怒りを覚えるような胸糞の悪いニュースは絶対に見ないようにしているし、見ることでネガティブになってしまう投稿をするSNSアカウントはミュートにする。少し前、試しにあえてそうした情報に触れてみたが、気持ちが落ち込み、見たことを後悔した。だから今は見たくない情報から自らを遠ざけるようにしている。時間と労力をかけ、自らを不幸にして人生の幸福度を下げてしまうのは、本質的に愚かである。「自分はどういった情報から遠ざけられるべきか?」を正確に認識し、システマティックに情報を遮断する時が来ている。ブータンの事例を見て、そうした行動が求められるのが、現代の情報化社会なのではと感じた。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。