日本人の3分の1は日本語を正しく理解できない

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

マネーポストの記事で、作家の橘玲氏が興味深い考察を取り上げている。「日本人の3分の1は日本語を読めない」というセンセーショナルな主張だ。

だが筆者は驚かない。どれだけ論理的に、簡素に、明瞭に文章を書いても、正確に内容を理解できない人をそれなりに見てきた自己体験があるからである。注意すべきは、本稿で取り上げる識字率とリテラシーを混同してしまうことである。日本人の識字率はほぼ100%で世界トップクラスに高い事実があるのだが、実際には内容を正しく理解できない人は意外なほど多いのである。

同記事では、OECD(2011~12年に実施)Programme for the International Assessment of Adult Competenciesの調査結果サマリを取り上げている。端的に調査対象となった先進国の成人48.8%は簡単な文章を正確に理解できないという。対して我が国においてはその割合は3分の1であり、この数字でも日本人の成績は世界一なのだという。

Olga Evtushkova/iStock

文字を読まない、理解できない人たち

筆者自身、自己体験的に文字を読まない、理解出来ない人と接して来た。そのため、この衝撃的な結果にはあまり驚くことはなかった。

会社員で働いている時期に、関係者にEメールで事前に周知をしても「そんな話は聞いていない」と言い出す中高年社員はいくらでもいた。また、今でもビジネス記事を執筆すると、「お前の記事の主張はおかしい」と内容を曲解していたり、記事タイトルだけで強固な思い込みだけでTwitterに感情的な批判を送られることはしばしばあるからだ。

よく言われる話に、「優秀な人はバカに理解できるよう、難しい言葉を優しく話すスキルがある」というものがある。確かにこの指摘は部分的に正しい。筆者もビジネスマンとして、できるだけわかりやすい比喩や言葉を用いて、伝わるビジネスコミュニケーションの努力はしているつもりだ。原則、ミスコミュニケーションは発信者側の技術に原因の9割があると思っており、うまく伝わらない場合は真っ先に自分の責任を疑うスタンスは取っている。

だが、どれだけ言葉を尽くし、ビジュアルを用いて伝える努力をしても、そもそも読み手に正確に理解するリテラシーがなければ、その技術や姿勢は意味をなさなくなる。つまり、ミスコミュニケーションの9割は話し手にあっても、残りの1割は受け手に存在するのだ。

筆者自身、リテラシーは低い時期があった

だが、えらそうなことは言えない。筆者自身もかつては、極めてリテラシーが低い時期があったからだ。

コールセンターで働いている時は、お客さんから質問を受けても聞かれた質問に正確に回答できなかった。また、相手の問題点の本質を見落として、マニュアルにかかれている順番通り機械的にしか案内できなかった時には、「兄ちゃん、こっちの話をちゃんと聞いて。全然聞いていることの答えが返ってきてないよ」とお叱りを受けることが少なくなかったのだ。

今、冷静に自己内観をすると、リテラシーが低かったのは、相手の話をきちんと聞いていないのが最大の理由である。お客さんは何に困っているのか?何を求めているのか?そうした問題点を理解しようと努めなければ、相手の言っていることを正確に理解できず、どうしてもズレた理解になってしまう。

そう、ビジネスリテラシーが低い人とは、相手の話を聞いていないのである。

ビジネスリテラシーを高めるシンプルな方法

それでは言葉を正確に理解するリテラシーを高めるには、どうすればよいのだろうか?その答えは常に相手の目線で考えることだ。

たとえば、勉強をする上で力をつけていくには、何を問われているかを理解する姿勢を持つことだろう。「英文法を身につける」という分野であれば、「英文法を身につける理由は、言葉のルールを理解出来る力を付けるため」という本質が見えてくる。そうすることで、英文法の取得には機械的な暗記で突破するべきではなく、深いルールの理解をするアプローチでなければいけないことが分かるはずだ。

また、相手とのビジネスコミュニケーションをする上でも、「この人は何の目的で、何を伝えたくて言っているのだろうか?」と考えれば、ズレた議論もなくなる。たとえば、会議の場で発表した提案に対して、上司から厳し目にNGが出た場合に「上司は自分のことを嫌いだからNOといったのだ」と感情的に曲解する人は少なくない。だが、そうではなく、上司は会議での発表に何を期待していて、自分の提案の何に対してNGと判断したのかを理解する努力をすることだろう。この場合でも、上司という相手への理解不足がズレを招いたと言えるだろう。

コミュニケーションにおいては、必ず発信者側とそれを受け取る側にわかれる。そしてリテラシーを高めるには、常に発信者側の意図を探る努力をすることが肝要だろう。…とはいえ、この記事にも最後まで読まずにして、熱き反論をする読者が現れることはすでに想定済みである。世の中は、正確に理解するリテラシーを持った人は意外なほど少ないのである。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。