円が対ドルで2018年初頭以来の水準まで下がってきました。ほぼ3年ぶりのレベルになるのでしょうか?為替の変動幅はかつては一年に20円以上動くこともあったのですが、先進国同士の振れ幅は小さくなる傾向が強まりました。いろいろな理由があるでしょう。生産活動拠点がばらけたこと、経済全体が成熟化したこと、ディスインフレ化が進み、金利差が為替変動の主題になりにくくなったこともあります。
ところがここにきて欧米のインフレ率が顕著に高まっている一方、日本の物価水準が今一つ上がりません。8月の消費者物価指数は総合指数で前年比マイナス0.4%、生鮮とエネルギーを抜いたコアコア指数でマイナス0.5%なのです。市場関係者なら思わず、ん?と聞きなおすでしょう。それぐらい日本の物価は異常値なのです。
アメリカが利上げの前段となる量的緩和の縮小に踏み切るのか、これが現在の最大の注目点です。悲観主義の経済学者、ヌリエル ルービニ氏はコモディティ価格の上昇が継続し、経済成長率が鈍化すれば利上げ計画は先送るだろうと意見しています。パウエル議長もこのインフレは一時的という立場を全面的には崩していません。
ただ、コモディティ価格の上昇については私はルービニ氏と同じ考えであと半年といった相当期間は続く、とみています。これはコロナ回復期で生産活動が一斉に開花した一方、エネルギー源がカーボンゼロ対策で絞られてしまった過渡期となったからです。但し、メディアは私が主張するカーボンゼロの余波とは逆立ちしても言わないはずです。それが反社会的と捉えられるからでしょう。
仮にアメリカの金利先高観が薄まるのであればドル高円安にはならないのでは、と考えると思います。ただ為替の話は時として全く違う世界を映し出し、それがまるでトレンドのようになることがあります。
今、ドルはなぜ強いのでしょうか?
まず、ドルインデックスをみると今年5月にやや形は悪いもののW底を付けた後急回復し、その途上にあります。チャート的にはあと5%程度は上昇の余地があります。5月から急騰し始めたのは物価高が意識された頃とほぼ一致しています。ということはインフレはドルの買いという流れにも感じます。なぜでしょうか?これはたぶんですが、アメリカがもつ潜在的エネルギー源(シェールなど)を含めた持久力の経済だとみています。同様にカナダドル指数(CXYチャート)でもカナダドルが2015年来のバリアを抜ける状況にあります。これは資源国家故の強さです。
一方、韓国ウォンは対ドルで1200ウォンを一時突破しています。今年の5月から見ると概ね8%ほどウォン安となっています。円は今年の1月に102円台をつけてそれ以降円安トレンドが止まっていません。現在の113円台後半はまだ節目にきているようには見えません。最近は円安=株高というシナリオも薄れてしまいました。
円安は日本にとってどんな問題を引き起こすでしょうか?
直接的なインパクトは輸入品の値上がりです。特にこの冬の光熱費の上昇には身構える必要がありそうです。新電力会社の電気料金は厳しい状況が起こりうるかもしれません。ここにきて一時期暴落していた木材の価格が着実に上昇、食糧についてもカナダ産小麦やアメリカ産牛肉が高騰するなどほぼあらゆるものが異次元の価格となりつつあります。エンド価格がびっくりするほど上がるのは時間の問題かと思います。
もう一つの懸念は日本と他国の物価水準の相違から輸入品の買い負けが起きること、輸送手段(サプライチェーン)が寸断されていることも日本には非常に不利な状況になります。
最後、私が懸念しているのは日本企業の価格=時価総額がドル建て見ると安いうえに時価総額そのものが株高でインフレしている北米上場企業にとって日本企業の価格が大バーゲン価格になっている点です。幸か不幸か北米企業があまり積極的に日本企業買収を仕掛けてきていないのですが高い技術力をもった会社は要注意かもしれません。IT関連はペイパルによるペイディの3000億円買収、グーグルによる送金業者プリンの買収(未発表ながら100億円前後か?)程度にとどまっていますが、今後の買収リスクにも大いに構えておく必要がありそうです。
同時にファンドを通じた日本の不動産の取得も積極化するかもしれません。
かつては円安万歳でしたが、円安が話題になればなるほどに日本が食い物にされやすくなることは脅威となるかもしれません。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年10月13日の記事より転載させていただきました。